寝正月に読んだ本です。ちょうど100年前に流行ったスペイン風邪をテーマにした短編小説。当時の感染を恐れる不安な気分がいまのコロナ禍とあまりにも似ていて、その対策も(外出の自粛、うがい、手洗い、マスク着用など)も100年前と同じだったことが今更ながらの発見。マスクをしない人や不要不急の外出をする人に非難の気持ちを抱くところなど昔の人も同じように感じていたのだなと。そして暑くなってマスクはもういいだろ、としなくなったころに、黒マスクをした若い男性を目にしてしまう。その時に主人公が黒マスクの若者に覚えた嫌悪感とその正体・・。菊池寛の小説は読んだ後にじん・・・とどこか余韻が残る作品が多いように思いますが、それは人間心理の深い部分や非常に細やかな襞に入り込む描写であるからかもしれません。うわー小説家はそこまで見抜いているの?と思うとちょっと怖い気もしました。
「マスク」とは別にスペイン風邪をテーマにした短編で、嫌われものの同僚が流行性感冒で亡くなり、その通夜にいく人をくじ引きで決めるという「簡単な死去」も、人の本音を結構ついているように思いました。あと久しぶりの再読でしたが、「忠直興行状記」、これはかつての福井のお殿様の話だったことに今回気づきました。人間の器の大きさというのを考えてしまう。今回はお殿様の気持ちがなんだかよくわかるように感じました。
数年前の芥川賞受賞作。文庫本になっていたので買ってきました。今の時代の気分をとてもよく切り取っている内容だと思いました。今の時代は「普通」であることが求められ、それからずれていると居場所がないような感じ。160ページの中編の中で私が一番印象に残ったのは「正常な世界はとても強引だから、異物は静かに削除される。まっとうでない人間は処理されていく。」や、「この世界は異物を認めない。僕はずっとそれに苦しんできた。」というセリフ。
男性と付き合うこともなく、大学時代から36歳の現在にいたるまでずっとコンビニでバイトをしている女性が主人公です。世間でいわれる「普通」と自分との乖離。みんな内側では問題を抱えてたり、普通じゃないのに表面は「普通」であるようにふるまわなければならない世界。今の時代の生きづらさを淡々と描写したような作品でした。