81本目。
原題(英題):DEUX DE LA VAGUE/TWO IN THE WAVE
監督:エマニュエル・ローラン
1950年代の終わりにフランス映画界に登場したヌーヴェル・ヴァーグの誕生をひもとき、2人の伝説的人物、フランソワ・トリュフォーとジャン=リュック・ゴダールの友情と決裂を描くドキュメンタリー。
2010年フランス映画。「ヌーヴェルヴァーグ」とは1950年代から約10年続いたフランス映画の新しい動向のこと。「新しい波」という意。ヌーヴェルヴァーグの流れと、その時代背景、この時代の旗手といわれたゴダールとトリュフォーそれぞれの作品や二人の関係の変遷についてわかりやすくまとめられたドキュメンタリーでした。ヌーヴェルヴァーグのことを知らなくても(私もよく知らなかった)、そのおおまかな輪郭がわかるような気がしました。
印象的だったのは若い人たちが主流となり、低コストで、それまでの映画の作り方とは全く違う手法で撮影されたこれら一連の作品に対し、世間の反応はその大半が批判的、拒絶的なものだったこと。絵画の世界でもモネやシスレー、ルノワールなどの「印象派作品」が出てきたばかりの頃は、こてんぱんにけなされていたのと全く同じなんです。どの世界でも今でこそ「古典」と考えられているものも、最初は「前衛的」と捉えられ、受け入れられない人のほうが多く、批判の洗礼を受けるのが通例だったのだなあ、と。この背景にあった時代の空気というものにもとても興味がわきました。
ゴダールとトリュフォー。それぞれの有名な作品が映されます。映画の新しい時代を築いた有名な作品ばかりです。ある時期からゴダールの作品は政治性を強く帯びるようになってきます。映画そのものを純粋に愛し、製作を続けるトリュフォーとの間にも考えに相違が生じ始め、二人の友情関係にも破綻がみえはじめます。この流れ、ジョン・レノンとポール・マッカートニーの関係を思い出します。天才同士っていつか必ず相容れない地点に来るときがあるのですね・・。
私が初めてヌーヴェルヴァーグ映画と接したのは大学生の時でした。積極的にみていたわけではなくて、当時、NHKの衛星放送でヌーヴェルヴァーグ特集というのを2週間くらいやっていて、毎晩一本ずつ放映されていたのをみたのがきっかけでした。あの時は監督たちのこととか、全然知識も何もない状態でみていたけれど、心に響いたのは「大人はわかってくれない」とか「突然炎のごとく」とかトリュフォーの作品。一方で「勝手にしやがれ」とか「気ちがいピエロ」とかゴダールの作品はよくわからないという感想だったような・・。このドキュメンタリーをみて、感覚的にどちらに与するかというと私の場合はやっぱりトリュフォーのほうでした。私は有名な作品しか知らないので、機会があったらもっとみてみたいなとも思いました。
そうそう。「勝手にしやがれ」の中で印象的なシーンがありました。ジーン・セバーグが演じる女性の部屋に印象派の画家ルノワールの有名な少女の絵が飾ってあるのです。ルノワールの息子ジャン・ルノワールは映画監督になり、第二次大戦中にアメリカに逃れ、ハリウッドでも作品をたくさん撮っています。後世の映画人にも影響を与えた人です。なんだかおもしろいなと。あらゆる分野で素晴らしい芸術人を生み出すフランスっていいなとも思いました。この時代に生きて、この時代の空気の中でこれらの映画をみてみたかったです。