75本目。

 

監督:市川崑

 

1965年日本映画。1964年に開催された東京オリンピックの記録映画。アマゾンプライムで無料視聴作品にあがっているのを見つけて、視聴。観て良かった!知らなかったことがたくさんありました。当時は「記録か芸術か」論議が起こったことでも有名な作品です。

 

まずは56年前のオリンピックが非常に簡素だったことに驚きました。夜の競技なんか表彰式でも殆ど顔が見えなかったりするんです。また映像中、選手の本国での職業を紹介するアナウンサーの声が入ってるのですが、大工、機械工、婦人警官、体育教師、歴史教師、印刷会社の会計係・・などが続き、とてもアマチュア感があります。近年は大きな企業や組織に所属して、スポンサーの名が前面に出されている印象があるけれど、当時はスポンサーのロゴも殆どみられず、こういうところなんか、まだ商業主義に染まりきらない時代で、オリンピック本来の精神が濃くあったように思いました。このほかにも面白かったのが、これまた選手紹介の時に「〇〇くん」みたいな感じで呼んだり、ピストルをもった男性が「位置について、よーい・・」みたいなことを言ってたりする。運動会の徒競走と違うって・・と突っ込みそうに(笑)。

 

その一方で、映像全体から感じたのは当時の日本人の元気の良さでした。敗戦国だった日本は1948年のロンドン・オリンピックには参加を許されなかったそうです。焦土での再出発からわずか19年でのオリンピック開催。世界中が日本に注目し、日本自体もこれからまだまだ右肩上がりの時代を突っ走っていく、という勢いが伝わってくるのです。映像の中の東京の街は今の煌びやかさの10分の1もないくらい地味です。自転車競技の場面でちょっと映されていたけれど郊外に出るとまだ藁ぶき屋根の家があったりする。でも、「明日は今日よりも豊かになる」と、素朴にみんなが信じていた時代だったのでしょうか、人々の表情が明るいのです。東洋で初めて開催されたオリンピックに対するアジア諸国の期待も感じました。

 

映像も素晴らしかったです。映画自体は競技そのものより、人間に注目して撮影されているようです。103台のカメラ、232本のレンズを駆使し、競技の一瞬にかける人間の姿をおいかける感じの映像が多く、カンヌでは国際批評家賞を受賞しています。私自身は教科書的な本や目上の人たちの話からしか聞いたことのなかった「東洋の魔女たち」や円谷幸吉選手、アベベ選手の姿を詳細に映像でみることができました。マラソンで三位だった円谷選手は最後ギリギリのところで二位から抜かれてしまったんですね。エチオピアの人って鼻筋が通って気品のある顔立ちの人が多いですがアベベ選手の修行僧のようなストイックな表情はとても印象的でした。


冒頭の開会式の行進はどこの国の選手も、近年のそれよりも整然としていてかっこよく、それだけでも観る価値がありそうです。開会式とは逆に選手らがリラックスした表情で和気あいあいと、秩序なく歩く閉会式のやり方は東京オリンピックが初めてであり、以降のオリンピックでもこの「東京方式」が採用されたのだとか。彼らの姿をみているとまさに平和の祭典という感じがします。翻って2020年。もはや来年のオリンピックも開催が危ういのではと思ってますが、こんな映像をみると、東京でのオリンピックを観てみたい!という気持ちが強くなりました。

 

同じオリンピックの記録映画としてはドイツのリーフェンシュタールが撮った「民族の祭典」というとても有名な映画があります。これも未見なので機会あればぜひ観てみたいと思います。