
三連休は真ん中の日曜日だけお出かけ。
福井県立美術館で開催されている「スーパークローン文化財展」を観てきました。
最先端のデジタル技術と日本の伝統技術を組み合わせた文化財の再現作品展です。
「クローン」という言葉に対しては「ドリー」みたいなややネガティブな印象をもっていましたが
こんなクローン技術なら大歓迎。
感想は「面白かった!」です。
「しょせんコピー・・」というレベルではない、なんだか全く新しい時代のものを観ているようでした。

会場に足を踏み入れると照明が落とされ、お香の匂いがたちこめていました。外国を旅するとその国独特の匂いってありますね。特にアジアはその印象が強いです。そうした空気感までもがオリジナルのそれを復元させたような感じで、心憎い演出でした。
声明のような音楽も聞こえてきます。あの辺の乾いた空気や何かの香料のような匂いまでもが思い出されて、西アジアから続くシルクロードの世界を旅しているような気持ちに。
会場の入り口にあった法隆寺の「釈迦三尊像」です。

オリジナルは門外不出。当然目にしたことなどないのですが、なんだかその質感までもが本物感たっぷりなんです。東京藝大が開発した3D計測、3Dプリンター、X線解析などの最先端技術でもってその素材感までも再現されています。富山県高岡の鋳物技術者らも協力し、最先端と伝統の技術を融合させたものともいえる作品。
法隆寺金堂の壁画。

釈迦三尊像を始めとしてここの展示物はみんな「触れる」!(笑)

あちこち触ってみる。本物はみたことないが、なんだか本物そっくり?

金堂の壁画。昭和時代に焼損しています。
失われたらもう再現できないと思っていたけれど、今の時代はそれさえ可能なのですね。
上は第6号壁焼損前壁画。
まだ記憶に新しいですが、イスラム教原理組織タリバーンが爆破してしまったアフガニスタンのバーミヤンの仏像壁画。まさか本当に爆破するとは思わなかった私にとっては衝撃の事件でした。いつか行ってみたかった場所なので崩れ去る遺跡の映像をとても悲しい思いで観ていた記憶が。イスラムの教えでは偶像崇拝はしてはいけないのだけれど、私の知る限り、イスラムって他の宗教には結構寛容なはず。こんな行為をするのはごくごく一部の原理主義者らなのだけれど、こうしたニュースで全世界にはイスラムについて誤ったイメージが広がってしまったのではないかと思っています。
破壊前の画像をデジタル処理して岩表面のでこぼこ部分まで精密に復元されていました。
バーミヤンの遺跡は東洋と西洋の宗教が対立することもなく調和を保って融合していた時代の象徴だそうです。
この仏像画の青色は現地で産出されるラピスラズリを使っているそうです。
平山郁夫さんのシルクロードの作品にもラピスラズリを使ったものが多くあります。
(佐川美術館や奈良の薬師寺で観られます!)
それらの絵では現地の澄んだ濃い青色が非常に美しく表現されていましたが、平山さんはおそらくこの天井画もご覧になられたのでしょうか。
下は敦煌とバーミヤンの間に位置するキジル石窟の壁画。
現在の新疆ウイグル自治区の北西あたりだとか。



トンネル状に奥に長細い空間の量壁に壁画が描かれていました。
よくわからないですが仏教説話っぽい絵画が並びます。
文字が読めない人が多数だった時代はこういう絵を観て人々は何を想ったのか。
ふとよく見ると、ここで描かれる人間の描き方が法隆寺金堂の壁画とそっくりなんです。
遠い時代にシルクロードを通ってこうした文化が極東の日本にまで運ばれていたことがわかります。
なんだか地味に感動しました。

ペンジケント遺跡だったか?(^-^;

敦煌莫高窟の再現。

朝日が差して昼間の陽光、夕暮れ、闇夜と移り変わる時間を1分間で再現されていました。
年月による風化具合とかまでそっくりに再現されていて興味深いです。
夜になると祭壇の前に蝋燭の炎が揺らめいていました。
ギリシャ彫刻?
今度は日本の江戸時代へ。

浮世絵は現存するものを観ることができますが、こちらで面白かったのは「香り」です。
当時の浮世絵にはじゃ香や白檀など香りがついていたのだとか。
近くで匂いをかぐことができたのでくんくん・・・
日本の伝統的な香りというか、とても癒される匂いです。
西洋香水のあのむっちりとした濃厚な匂いではなく、お風呂上りの石鹸のようなふわっと香る匂いに近い感じ。
こちらも触れます。
マネの「笛を吹く少年」。有名ですが、これ、絵ではないんです。
絵画を3D化した立体作品です。
別の階には国宝三大絵巻の復元版が展示されていました。信貴山縁起絵巻、伴大納言絵巻、源氏物語の3つですが、これらも皆、ぱっと見、全くオリジナルと遜色ないくらい精巧です。それぞれ久しぶりにストーリーを追いかけてみました。ライバルの左大臣を陥れるために左大臣のしわざとみせかけて応天門に放火するのだけど、結局それがばれてしまう伴大納言。最後は伊豆に島流しというなんとも残念な人生。源氏物語絵巻に描かれる男女の駆け引き、裏切り、嫉妬、哀しみ・・・。テクノロジーがこれだけ発達した現代にあっても人間の「感情」の部分、ひいては「愚かさ」というのは1000年前と大して変わっていないのだなあ・・・と思ってしまいました。(^-^;
展示作品はバラエティに富んで120点ほど。匂いや音の再現など人間の情感に訴える五感での体験ができ、とても興味深い展覧会でした。
ちなみに展示作品の殆どは撮影OK、SNS投稿OKというものでした。
おそらくこの面白さはネットを通してしまうと半減されてしまうように思います。
近くならぜひお勧めしたいです。(*^-^*)