47~48本目。

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原題:LE FILS DE L'AUTRE (THE OTHER SON)
監督:ロレーヌ・レヴィ
キャスト:エマニュエル・デゥヴォス、パスカル・エルベ、ジュール・シトリック、マハディ・ザハビ、アリーン・オマリ、ハリファ・ナトゥール

テルアビブに暮らすフランス系イスラエル人家族の18歳になる息子ヨセフ。ある日、兵役検査で両親の実の子ではないことが判明する。18年前、湾岸戦争の混乱の中、病院で別の赤ん坊と取り違えられていたのだ。しかも相手は高い壁の向こうに暮らすパレスチナ人夫婦の息子ヤシンだった。最初は事実を受け止めきれず激しく動揺するヨセフとヤシン、そしてそれぞれの家族たちだったが…。〜All Cinema~

2012年フランス映画。本当に観て良かったと思う映画は昔から10本に1本くらい。久々にそれに当たったようです。福山雅治、リリー・フランキー出演の「そして父になる」と同様の設定でしたが、「そして父に・・」はエリートな父親、教育熱心な家庭 vs. 貧乏子だくさんの家庭での対比であったのに対し、こちらの作品はユダヤ人とパレスチナ人の間での赤ちゃんの取違えです。人種的なもの、政治的なものが絡んで、より複雑です。

過去、私自身がアラブの人たちとご近所だったことがありました。また別の時期にユダヤの人と仕事をきっかけに知り合い、どちらの人たちとも親しくお付き合いしていたことがありました。普段は明るくて冗談ばかりいっているアラブ人も話題がユダヤのことになるととたんに憎悪をあらわにします。家族思いで非常にフレンドリーなユダヤ人の青年もアラブのことになると目の色が突然変わるんです。日本も隣国といろいろ感情的なわだかまりがありますが彼らの間の憎しみはもっと根深い感じがしました。あそこまでの憎悪は日本人にはちょっと理解不能かもしれません。こうした映画が作られるのは多民族国家フランスだからこそかと思いました。民族の問題もずっと身近に感じられるのかと。

また「そして父になる」はどちらかというとそれを知った親たちの感情の葛藤を描いたものでしたが、こちらは18歳になる当事者たちにより焦点を当てています。もちろん親たちもですが。これまで憎しみの標的だと考えて育ってきた相手のところに出自があったと知った二人の青年たちとその家族。体裁とかプライド的なものにこだわる父親に対し、母親のほうはここでも違う反応なんです。母のほうは民族とか国籍の違いとかそういうのはわりとたやすく乗り越えてしまう。母の愛は深く無償なのはこれも普遍的真実かと。一方で父や兄は憎むべき敵の息子というレッテルからなかなか逃げられない。

また当事者である息子たち。テルアビブに暮らすエリート・ユダヤ人の両親のもとで暮らすヨセフ、パレスチナの労働者家庭で育ち、パリの大学で医学部に進学予定のヤシン。動揺がなかなか収まらないヨセフに対し、ヤシンは割とはやいうちに現実を受け入れているというか、いつまでもたじろいでいる感じではないのですね。民族の問題をもっと高い視点から俯瞰している感じがしました。これは彼が自国を出てより広い世界に身を置いていることで身につけた広い視野がなせるものかと感じました。

とても印象に残る場面がありました。二人が鏡の前に並び、ヤシンがヨセフに「僕たちはイサクとイシュマエルだ」という場面があるんです。キリスト教圏、イスラム教圏の人はこの一言で映画のメッセージがわかると思います。この人物たち、旧約聖書の前半のほうに出てくるアブラハムの息子たちの名前です。旧約聖書の記述では、イサクはユダヤ人、イシュマエルはアラブ人の先祖になります。現在憎しみあう二つの民族はアブラハムの時代に戻れば同じ先祖をもつ兄弟なんです。今の10代、20代の人たちがよりボーダレスになる世界で活躍するこれからの時代、民族の桎梏を乗り越える若者たちがもっと増えてほしいという希望を託した内容にも思えました。
ついつい・・この映画のレビューには気持ちをいれこんでしまいました。


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監督:黒澤明
キャスト:黒澤明、山田五十鈴、志村喬、久保明、千秋実

シェイクスピアの『マクベス』を日本の戦国時代に置き換え様式美に拘り描いた戦国武将の一大悲劇。鷲津武時は謀反を起こした敵を討ち、その帰途の森で出会った老婆から不思議な予言を聞く。やがて予言通り事が運び始めると、欲望に取り憑かれた妻にそそのかされて主を殺し、自ら城主の地位につくのだったが……。やはり圧巻は三船マクベスが、これでもか、という矢の雨あられに曝されるラストシーン。黒澤監督、かなりムチャしてます。~All Cinema~

1957年日本映画。「マクベス」のあらすじに「能楽」の要素を取り入れたエンターテイメント作品。シェイクスピアというととても高尚なイメージがありますが、実際は人間の情念とか生生しい感情をリアルに描き出した劇作家だと思います。こうした欲望や愛憎というのも普遍的な人間の感情なのでしょう。この作品については、城郭となったセットがすごい。富士山二合目に作られた黒澤映画一の壮大なセットで当時は御殿場市からみえたとか。黒澤監督がかなりムチャしたという最期のシーン、三船敏郎さんが矢の雨に見舞われるのですが、三船さんはこの撮影の前はびびって眠れなかったという逸話を何かのサイトで読みました。それくらい恐怖とスピード感があり、迫力満点でした。山田五十鈴さんの妻、狂気にとりつかれた女性という感じでただただ怖いです~。また冒頭の霧雨の中から城郭が現れるシーンはその後、「未知との遭遇」でも使われたそうです。黒澤映画は世界中の映画製作者にインスピレーションを与えているのだなと感じた逸話です。惜しむべきは当時の録音技術のためなのか全編通してセリフがめちゃくちゃ聞き取り辛いです。字幕が欲しかったくらい(涙)