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年明けから少しづつ読み進めている寂聴版「源氏物語」、
今月は8巻&9巻を読みました。
光源氏が亡くなり、物語は源氏没後の彼の子孫たちの
恋愛を描いた「宇治十帖」へ。
専門家の間では宇治十帖は違う人が書いたのかも?という
考えもあるほどらしく、物語のトーンががらっと変わる感じがします。
どんなふうに変わるかというと、どこか現代文学を読んでいるような感じで
人物への感情移入がしやすくなるのです。
「こういうこと実際にありそう・・」という感覚です。
宇治に隠れて住んでいた美人姉妹が匂宮と薫の君という当代一を争う
男性たちから言い寄られ、でもお姉さんのほうが死んでしまったので
妹を取り合う。結局、妹は匂宮と一緒になるのだけど、薫の君は彼女のことが
忘れられない。困った妹(中の君)が異腹の妹(浮舟)を紹介して
薫の君の気持ちを逸らせようとするも、自分の旦那(匂宮)までが
浮舟のことを好きになり・・という三角関係が縺れにもつれて・・という。
 
それにしても紫式部の人物描写は凄いものがあると思います。
例えば薫の君のこと。一見すると誠実で純情な男性のような印象を与えます。
でも実は身分の低い女性のことは見下していたり、
結構思い上がりが強い部分、冷酷な部分があるところなど
一人の人間の陰翳を非常に緻密に描きだしているのですね。
これも更に寂聴さんの解説があるからこそ、よくわかるのですが。(^^;)
 
 
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著者は辻調理師専門学校の創設者。いくつかの講演やエッセイを
一冊の本にまとめたものです。ギリシャ、ローマの食事から始まって
中世、近世、現代に至るまでの料理の歴史、
食文化についていろんな角度から語っています。
 
面白いな・・と思った逸話:
例えばウインナーコーヒーは17世紀にウィーンを攻囲していたトルコ軍が
遁走する際、置いていった珈琲豆がきっかけだった。
昔はフランスではポタージュは同じどんぶりに入れて「まわし飲み」していた。
コース料理を一品、一品出すようになったのはロシア式をまねたものだった。
イタリアのメディチ家からカトリーヌがフランス王室に嫁いでくるまでは
フランス料理は粗野で品のないものだった、とか。
 
著者は元新聞記者、ちょっとした雑学、逸話も非常に小気味よく
書かれていて興味深くく読むことができました。
 
でもそれだけでは終わらない中味でした。学校経営者として人を育てること、
また経営についての厳しい言及もされていますし、
料理研究家として料理の本質を突き詰めようとされているように感じます。
深い教養、洞察力を感じる内容で、また何度か読み返したいと思います。
 
 
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サンダカンというのはマレーシア・ボルネオ島第二の都市。
明治時代から昭和の初め頃まで、日本人の若い女性たちが
東アジアや東南アジアに渡り、娼婦として働いたという歴史がありました。
彼女たちのことは「からゆきさん」と呼ばれていました。
この本はその女性たちについて書かれた底辺女性史です。
 
表紙の写真は海外に半ば騙されて売られていった少女たち。
客をとらされる前日に盛装で記念撮影したもの、という解説を読んだ時、
胸が痛くなる思いでした。
まだ12歳か13歳。明治政府の外貨獲得の原資として利用されていた
からゆきさんたち。彼女たちがどういった経緯で海外に売られ、
どのように暮らし、その晩年はどうだったのか、元からゆきさんだった
おサキさんというおばあさんの家に著者が住み込み
体当たりの取材で書き上げた一冊です。
 
この本は昭和40年代に出版されたものですが、
当時、おサキさんが住んでいたあばら家は
歩くと腐った畳が田んぼの土のように凹み、
ムカデが巣を作っていたと書かれています。
学校に通えなかったので文字が読めない、書けない。
生活の貧窮ぶり、彼女の辿った壮絶な人生は信じがたいほどでした。
 
過酷な運命は多くの人々の場合、その精神を蝕み、堕落させ、崩壊させます。
けれどもおサキさんはそうではなかった。その過酷な境遇を経て、彼女の精神は
どんな教養人でも到達しえない高みに達していました。彼女の強さと心の美しさに
泣けました。そして晩年の彼女は幸せだったということを知り救われた気持ちになりました。
 
また取材が行われ本が出版された昭和40年代、
高度経済成長の陰で、結構社会主義的な考え方(資本主義は悪という)が
強かったことが印象的です。
当時の日本人がアジア人に対して抱いていた蔑視感情もかなり露骨。
今では絶対使ってはいけないような差別用語が普通に出てくることにも時代を感じました。
 
 
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時代は唐。李徴は博学で有能な役人だったが、プライドが高く困った人。
役人の身分に満足できず、詩家として名を成そうとするけれど
そう簡単に文名は上がらない。結局挫折。そのうちに生活に
困るようになり、今度は地方官吏として働く。しかしかつての同僚は自分より
出世し、今度は彼らの命令を聞かねばならない立場になった。
彼の自尊心は傷つき、出張先である日、発狂し、行方不明になってしまった。
 
翌年、彼の唯一の友人だった人物が旅先で人々から恐れられている
人食い虎にあう。実はその虎は李徴の変わり果てた姿であった。
旧友と再会し、泣きながらそのいきさつを語る李徴。なぜ虎になったのか。
それは「自身の臆病な自尊心と尊大な羞恥心」のためであると。
 
自分が実は無能なことがバレるのが怖くて
より優秀な人とは交われず、かといって変なプライドがあるから
「自分は他とは違う」という自負を捨てきれなかった、
そのうち自分の中で「臆病な自尊心」を飼い太らせる結果となり、
制御できず、身の破滅を招いてしまった。
 
日に日に人間の心が消えていく、獣になって友を襲う前に遠くへ行ってほしい、
と涙を流した・・・まとめるとこんなあらすじです。
 
李徴の告白からは人間の持つ矛盾というか、弱さが抉り出され、
それが目の前に突き出されたような感覚を覚えます。
国語の授業で読んだ人が多いかもしれません。私も高校生の時に
習った記憶があるのですが当時は先生の説明を聞いてもよくわからず・・・寝てました。
 
今なら李徴さんの気持ちがわかります・・・(ToT)/ 
これ、誰もが成長過程の中で通る道のような気がします。
また格調高い漢文調の美しい言葉の響き。一作読むごとに余韻が後を引きます。
他の作品も素晴らしい。寝ていたのがもったいなかったですね。(^-^;
 
今月の読書はあとこれだけ。
最近、食に関する資格取得の勉強を始めたので、その関係の本をいくつか。
勉強する時間が増えた分、本を読む時間が減ってしまいました(/_;)
 
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