
7月は太宰治の作品を集中して読んでみました。
時系列的に読んだわけではなかったので
印象がバラバラになっていますが、
人間心理の底にある醜さや浅ましさが抉りだされたものが多く、
特に晩年の作品にそれが顕著に描かれているような気がしました。
でも彼の作品は決して、暗い、陰気な作品ばかりではなかった、
ということが今回の発見でした。
戦時中に書かれた「津軽」や「お伽草子」は「人間失格」や
死の直前に書かれた作品とは対照的な明るい印象が残るものでした。
この人は本当に繊細で優しくてお人よしな性格の人だったのだなあと思ったのが
「津軽」という紀行文です。
乳母と再会する作品最後の場面はとても感動的でしたし
その場面を想像して温かい気持ちになれました。
「お伽草子」は大人になった今だからわかるいろんな事情が
見え隠れします。こちらの一冊はとりわけ面白くて
すごいハイペースで一気に読んでしまいました。
太宰作品は暗いから嫌いといわれる人に薦めるなら
この2作品でしょうか。(*^_^*)
亡くなる前の作品、「グッドバイ」に収められた短編作品には
戦後の道徳の荒廃があらわに描かれています。
物資の乏しかった当時の日本人の生活の様子が
凄くリアルに伝わってきますが、
更にそれに輪をかけて人の心が荒れすさんでいるのがよくわかりました。
あんな粗っぽい時代は太宰のようなデリケートな人にとっては
非常に生きにくい時代だったのではないかと思います。
作者は最期に女性と一緒に入水自殺をしていますが
自殺を試みたのは5回目だったとか。
それ以前には一緒に死のうとした女性だけが亡くなって
太宰だけが助かったということもあったそうです。
度重なる自殺も未遂に終わり、
戦争を生き延びて、戦後に「斜陽」と「人間失格」という
彼の作品でももっとも有名な2作を上梓したわけですが
ちょっとドラマチックに考えてみると
運命はこの作品を書かせるために、
彼を生きながらえさせたのかもしれないですね。