
小説で読んでみようと思い、吉川英治の「新・平家物語」を読みはじめました。
平家物語のエピソードは断片的にはいろいろ知っていましたが
通して読んでみることで、受験勉強の時以来、殆ど接していなかった
この時代の全体的な流れが把握できればと思います。
もっとも、タイトルに「新」がついている通り、
原作の書きなおしというわけではないようですが
「祇園精舎の鐘の声・・・」に表される仏教の無常観、
この時代の空気や人物同士の関係など
わかりやすく描かれているような感じです。
全部で16巻あるので今回も長いよ~。
1巻目は保元の乱前夜。
保元の乱とは、藤原忠道、頼長兄弟の争いが
崇徳上皇、後白河天皇兄弟の対立と結びつき
1156年の鳥羽法王の崩御をきっかけに勃発した戦いですが、
もともとは白河上皇以来のお家騒動に端を発しているのですね。
この時の天皇の継承は
白河→鳥羽→崇徳→近衛→後白河となっています。
崇徳→近衛→後白河の3天皇は鳥羽天皇の息子です。
時代は源氏物語の頃からそう離れていない頃。
白河天皇は光源氏みたいに色好みが過ぎたようで、
息子の鳥羽天皇の妻とも関係を持っていました。
こんな事情があったゆえに
鳥羽天皇の息子として生まれた崇徳天皇のことも
実は白河天皇の子供ではないか?という疑いが生じる。
そしてここから鳥羽、崇徳親子の感情の綻びが始まるのです。
鳥羽上皇は白河法王が亡くなるとすぐに
自分の息子ではないと思っている崇徳天皇を譲位させ、
もう一人の女性、美福門院に産ませた
近衛天皇を即位させます。
失意のうちに隠居を余議なくされる崇徳上皇。
でも近衛天皇は17歳で崩御。
それでは次の天皇の位こそは自分の息子に・・と思っていた崇徳でしたが
人間の愛憎は恐ろしいです、鳥羽法王は執念深く、徹底的に意地悪をします。
崇徳上皇の実弟を後白河天皇として立てるのです。
この家庭内のもめごとを利用して対立にもっていく時の権力者たち。
人間が捨てきれない「業」みたいなのがよくわかる場面でした。
主人公の平清盛はまだここではそれほど登場しません。
今後は時代を動かす力が武士へ移行してくるのですが
この頃の武士はまだ公家に「飼われて」いるような存在。
天皇家、貴族が世の中を支配する平安時代は、
お寺の力もまた強かったのですね。
京都の比叡山、奈良の春日、滋賀の園城寺(三井寺)とか。
何かあると強訴と称して山を下りて乱暴なことを繰り返す。
清盛が彼らに毅然として立ち向かう場面があり、
今後の時代の変化を感じるようでした。
印象的だったのは、立派な鎧を作ってもらうために
キツネ二匹分の皮が必要だと言われ、清盛がキツネ狩りに出かける場面です。
偶然、毛並みの良い雄のきつねに出くわし、矢を向けるのですが
そのキツネは逃げようとしない。
どうしてかと見てみれば、そばに雌のきつねがいるのです。
その雌のきつねは子を抱いており、逃げることができないのですね。
子を守るため、犠牲の勇を示す父親と、総毛を逆立てながら
かなしげに深く子狐をかい抱いている母親のきつね、
その美しさに心を打たれ清盛は鏃をあらぬ方向に放ってしまう。
この時、清盛がみたきつね親子の姿と
人間世界の愛憎やドロドロの権力争いの間の対照は
あまりにも鮮やかすぎたのかもしれませんね。
西行や文覚も脇役っぽく出てきます。
西行はこの時代の人だったのかと改めて思い出しました。
歌人として名をあげていましたが、
宮廷や貴族の家で行われていた歌会などにはあまり参加せず
23歳で出家したひとです。
文覚は遠藤盛遠と名乗っていた青年武士の頃に
美しい人妻に恋して、夫を殺すつもりが誤って彼女を殺してしまう。
そのあと出家して真言宗の僧となります。
次巻以降、保元の乱、平治の乱と続き、平家が栄華を極めるまでの
道のりをたどることになりますが、備忘録のつもりでまた
メモしていきたいと思います。^^