

2年前のNHK大河ドラマの原作です。
上巻は毎日の職場の休憩時間にちびちびと、
下巻は先週末のホテル滞在時に一気に読んでしまいました。
物語の始まりは、薩摩藩島津家の分家に生まれた学問好きの姫が、藩主斉彬にその才覚を見込まれ、徳川13代将軍家定の正室となるべく江戸城に嫁いでいく場面から。
外様大名の分家に生まれた一女性が、
時の日本一の権力者の正室となるわけですから
傍目からは女性としては最高の栄華を掴んだ出世物語です。
でも現実には夫は病弱でとても子供はなせず、
将軍家定とは形だけの結婚生活。
結婚して2年も経たないうちに夫は亡くなってしまう。
女ばかりの大奥での確執も大変。
そんな中で今度は幕府が進める公武合体策での和宮降嫁。
全く徳川家に融けこもうとしない嫁との難しい関係。
確実に屋台骨が崩れていく幕府が迎える大政奉還。
そして江戸城総攻撃が迫ってきた頃、
攻めてきた新政府軍にいるのは自分の実家の薩摩藩。
・・・と苦労、困難の連続の人生なのです。
自分を認めてくれたと信じていた養父の斉彬も実は
篤姫を政治の謀略の道具として使っていたことを
知った時のショックはどうだったでしょう。
普通の女性には耐えられない人生の重荷をいくつも
背負いながら、3000人からなる大奥の総帥として
女性ばかりの大所帯をまとめあげ、
徳川宗家のために生きたこの人の
聡明さ、芯の強さに感銘を受けました。
歴史小説は殆どが男性が主人公であり、
女性は脇役として描かれることが大半なのですが
役割こそ違うけれど、女性たちも男性たち同様、
歴史を作ることに貢献してきたのです。
女性からの視点に立った幕末の情景、というのも大変興味深かったです。
そのほかでは大奥のシステムとか、決まりごと、習慣など
意外と知らない部分が多くありました。
また、お世継ぎ確保のため、
夫・家茂の側室に子供ができるように神仏に祈らなければ
ならなかった和宮の苦しみとか、
それを横で見守る篤姫の複雑な心境とか。
こういうのも女性の視点ならではですね。
普通の女性として生きることが叶わなかった大変さの一方で
篤姫は長たるものがもつ威厳と高邁な精神を備え、
徳川家の人間としての生き方を貫きました。
彼女は大きくうねる幕末の中で、波乱万丈の人生を生き抜いた女性。
徳川家を守ろうとする篤姫の努力がなかったら、江戸幕府の終焉と共に
徳川家も滅亡していたかもしれない、というのが、明治維新後、
篤姫が育てた徳川家16代当主家達の口癖だったそうです。
彼女が亡くなった後、家達は彼女の遺影を描かせ、居間にかかげて
子供たちと毎日のように礼拝し、のちのちまで彼女のことを神の如く敬ったと書かれています。
本当に偉大な女性だったのですね。