イメージ 1
宮尾登美子さんの小説「陽暉楼」を読みました。
この小説の主人公は房子という芸妓。時代は昭和初期。
房子は父親の借金のために12歳で土佐一の料亭陽暉楼に売られてきます。
天性の資質もあり、まじめな努力家でもあった彼女はその後、桃若という
一流の名妓となります。
 
男に本気で惚れてはいけないという花柳界の約束に従えず、
房子はある若い男性客のことを好きになってしまい
身ごもった彼女は一人で子供を産むことを決心します。
 
まじめすぎる性格ゆえか、多くの敵を作ってしまい、窮地に追い込まれ、
結核を発症し、幸薄い人生を終えてしまう。
あまりにも報われない彼女の人生を読み終えてちょっと切ない気持ちになりました。
 
花柳界のシステムや、旦那との関係とか、女同士の戦いとか、内側がよくわかる本でした。
こういう場所に売られてくる女の子は皆、家の事情を背負ってきており、
何年も奉公してその借金を返すのですが、借金という足かせがあるため、
厳しい稽古や仕事から逃げることができないのです。
 
芸者を育てるのはその店だけでなく、粋がわかり、かつお金もあってスポンサーとなれるお客さんもあってこそ。「自分たちは身体を売る娼妓とは違う」というギリギリのところでプライドを保とうとしているのがわかります。でも、こういう世界ではやっぱり好きでもない男性との関係から逃れることはできない。
 
男性にとっては非日常を楽しむための場所であった花柳界ですが、ここで芸妓として働く女性たちは普通の女性として生きることを許されなかったわけです。全てはお金。周囲をうまく利用して上に登っていく子もいる一方で、房子みたいに芸は一流でも生き下手な女性もいる。いずれにしろ女性たちにとっては覚悟のいる大変哀しく辛く厳しい場所だったのだと思います。閉ざされた世界で、たくさんの足かせをはめられながらも、自分の道を貫こうとした芯の強い房子の生き方が心に残りました。
 
陽暉楼は高知市にある実在の料亭で、現在も得月楼という名で営業されています。
この物語自体はフィクションですが、主人公の桃若さんも実在の人物だったようです。
 
数年前のお正月に高知へ旅行した時、地元の友人が得月楼にお昼を食べに連れて行ってくれました。
物語の時代に比べると規模は大分小さくなっているようですが、格式を感じる立派な料亭でした。
高知の冬はあまり寒くなく、案内された部屋の向こうからは太陽の光が差し込み、
ぽかぽかと暖かく、平和で静かな空間でした。
今、思い出してみましたが、そこからは物語に描かれている女性たちの悲哀はもはや想像できません。
自分の記憶の中の得月楼に、小説の中の場面を重ねてみました。
感慨深いものがありますね。
 
 
イメージ 2