
少し前に静岡県浜松市に行く機会があり、
この時に平野美術館に立ち寄りました。
ちょうど9月18日にリニューアルオープンし、
同館が所蔵している作品の中でも人気のある名品ばかりを
展示した企画展「美の競演」が始まったばかりでした。

こぢんまりとしたスペースの中に近代日本画を中心とした
作品が展示されていました。
洋画、浮世絵版画、現代美術、工芸彫刻なども
立派な作品がたくさん。
最近、日本画の繊細な輪郭線や色使いに惹かれます。
美人画などいいですね。伊東深水の傘美人という絵がありましたが
使われている色が優さしく細やかな情緒を感じさせます。
日本の自然の色もこんな淡い色のイメージです。
例えば太陽光線の強い南国ではこのような繊細な
色や影の違いは消されてしまい、それに気付くこともありません。
日本人の感性は日本の豊かな自然に育まれてきたことがよくわかります。

渡辺崋山の猛虎図です。この人は三河国田原藩士の子でした。
当時の田原藩は借金がたくさんあり、借金の棒引き交渉をしたそうですが、その際、貸し手の加藤家という商家が渡辺崋山に猛虎の絵を描いてほしいと依頼し、それで描かれたのがこの作品だそうです。
目覚めたも猛虎の姿。目元が鋭い印象です。当時の人は実際に虎を観たことはなかったそうで、多くは想像して描かれたものだそうです。香川県金毘羅宮の所蔵作品に円山応挙の虎の絵がありましたが、円山応挙も虎を観たことがなかったので、虎の毛皮と、猫の姿をモデルにしたとか。だからちょっとまるっこくてかわいい虎でした。

二河を渡って極楽浄土にたどり着くという浄土教絵画です。
でもこの河を渡る途中に獅子、虎、毒蛇が襲ってきたりするし、
なかなか簡単には渡れない。
河そのものは「貪欲、執着心」を表しています。
一番下は詩歌管弦にふける現生の世界、また火の河があって
それが現わしているのは怒り、憎しみ。
争う人間の姿が描かれています。
現生から極楽浄土に行くには、こうした多くの欲とか、
争い、執着といった醜いものを渡り切らないといけません。
つまり、人間が生まれもつ業みたいなものを克服するというか、
捨て去らないと極楽浄土へは行けない、ということでしょうか。
大変示唆的なものですね。
休日の美術館だったわりには来館者がとても少なく
ゆっくりソファに座って休んだり、絵を観たりすることができました。
全体に品の良さを感じる素敵な美術館でした。