秋風が吹く五丈原で、諸葛孔明は
中原平定の志半ばにしてこの世を去り、
吉川三国志はここで終わりです。
群雄割拠する戦国の世で
次々と英雄が登場する前半とは異なり、
将と頼む人材が暁の星のように消えてゆき
孔明自身も消えゆく星のひとつとなりました。
なんともいえない寂寥感が漂う最終巻でした。
孔明死後の三国がたどった歴史について
作者は8巻目の最後に「篇外余録」というのを書いてます。
三国は滅び、後半になって登場してきた
司馬仲達の一族によって晋という国が成立することになりますが
その中で「諸葛菜」という章に書かれた孔明の人物像についての
考察が興味深かったです。
このひとはとても正直で実直で忠誠心の強い人だったと。
彼が軍を移してある地点へ移動するたびに、そこで
必ず付近に蕪の種を蒔かせて育てていたそうです。
蕪は春夏秋冬季節を選ばず生育し
土壌を選ばず諸兵の栄養源となっていました。
一国を率いる総帥という立場にある人は、普通は
このような細々としたところにまで心を砕くことはしませんね。
食料大臣みたいな担当に任せるでしょう。
この蕪は時代が移っても民衆の間で「諸葛菜」と
呼ばれて愛食されているそうです。
また蜀が魏に滅ぼされ、後、またその魏を制した
桓温という人が、首都成都に入った時、
孔明存命の頃のことを覚えているという老人に
諸葛孔明はどのような人物だったかと尋ねたところ
その老人は、
「孔明という人は別段特別なひとには見えなかったが
ただ、あなた様のいらっしゃる左右にみえる
大将方のようにそんなお偉くは見えませんでした、
あんな方はもうこの世にはいない気がします」
と答えたそうです。