
吉川英治版の「三国志」、3巻目を読み終わりました。
三国とは魏、呉、蜀の3つの国のことで、現在の中国ではそれぞれ
魏が北のほうにある許昌、呉は今の南京、蜀は西のほうにある成都になります。
ここをそれぞれ、魏の曹操、蜀の劉備、呉の孫堅が三分するのですが
今、読んでいるところではまだ中国は日本の戦国時代同様、
たくさんの武将が群雄割拠する激動のさなかにあります。
読んでいると、あっちとこっちが連合して強者に向かったり、
また分裂して、別の敵とくっついたり、戦ったり・・と
変な例えですが、その勢力図のイメージが
まるでアメーバの動きを観ているかのようです。
3巻目では長年の敵だった呂布を倒した曹操が力を増してきます。
曹操は将来を約束されていた秀才の役人だったのだけれど
いわゆる優等生というよりは、破格で残酷で非情な一面もあります。
既成の制度なども容赦なく変革を行った人だそうです。
しかしその一方で信義を大切にし、有能な人物を愛するなど、
日本史でいえば織田信長を連想させるようなところがあります。
彼が対峙するのが劉備。漢の皇帝の末裔である劉備は
温厚で徳性のある人物として登場します。
関羽や張飛といった優秀で義心に富んだ部下を持っていますが
3巻目では戦に負け、北の袁紹のところに身を寄せて、ちょっと落ち目です。
劉備の部下である関羽にほれ込んだ曹操はあの手この手を使ってアプローチして
関羽を自分の騎下に迎えようとするのですが、劉備と義兄弟の約束を交わした
関羽は一向にその気になりません。
権力とか物品では絶対に心を動かそうとしない関羽に、曹操はこれまた惚れ込むばかり。
片思いする相手の連れない態度に、一層の恋心を募らせる・・
そんな曹操の姿です。
消息の途絶えた劉備が袁紹のところにいるとわかったとたん、
関羽は曹操の下を去って劉備のところに戻ろうとします。
これを知った曹操、自分のところを去っていく関羽に対し、
これまでのような短気を起こさず、
礼を尽くして関羽を見送りにくるところにはちょっとじんとくるものがありました。
たくさんの人物が登場しては消えていき、
なかなか全部フォローしきれない感がありますがとても面白いです。
壁に耳あり障子に目あり・・簡単に人は信じられませんと思うほど
陰謀や裏切りがあり、権謀術数渦巻く展開が続きますが
一方で信義に篤く忠誠心のある人物も登場し、中国ではどういった価値観が
大事にされ尊ばれてきたかがわかるようです。
ただ歴史小説では司馬遼太郎の作品を多く読んでいるので
つい比べてしまいますが人物描写においては司馬作品のほうが
深みがあるような印象です。