カトマンズで

大学４年生の秋、仲良かった女友達とふと思い立って
二人で３週間ほどインドとネパールへ旅行に出かけたことがある。
私も彼女も３年次で単位は殆ど取ってしまっていて
４年生になったら授業も一週間に２コマだけ。

就職活動も終わり、たいしてやることもなく
毎日が暇で暇で、仕方なかったからだ。
物価が安そうだし、面白そうだから・・と、
たったそれだけの単純な理由で、その数日後にはインドに向けて旅立ってしまった。

行ったはいいけれども、何も考えずに行ってみた
インドはあまりにもカルチャーショックが大きくて、
私たちは殆ど逃げるように、これまた予定していなかったネパールのカトマンズに飛んだ。

カトマンズでは運よく、居心地の良い安宿を見つけた。
この国での滞在はこの上なく楽しかった。
インドみたいにホテルを一歩出れば、あちこちで騙されまくる・・ということもなかった。
物価はびっくりするほど安いし、何よりもヒマラヤの威容をこの目で見れて感動した。

欧米からきていたたくさんのバックパッカーの人たちとも知り合った。
欧米の人は若いうちに視野を広げるため長期にわたって世界中を放浪旅行する人が多い。
彼らとも仲良くなって、毎夜のように互いの旅行体験の話などに花が咲いた。

ネパールはとても貧しい国だった。
私たちは、ここの国は物価が安いよね、と喜んでいたが、
そこで暮らす人たちのことに思いを馳せる気持ちなんていったいどの程度あったのだろう。

食事は泊っていた安宿の近くのレストランに毎日いっていた。
そこでは私たちと同年代と思われる男の子がウエイターとして働いていた。
英語が上手で、暇な時は、彼はすぐに私たちのテーブルのそばにきておしゃべりをしにくる。

彼はその国の大学で経済学を専攻する学生だった。
毎日学校が終わったら
夕方の５時から１１時までその店で働いて生活費を稼ぎ、
仕事が終わったら午前３時まで勉強して、
３時間睡眠をとり、
６時に起きて大学に行く・・
という毎日だと言っていた。

「ここみたいに外国人観光客の多い店は英語の勉強にもなるので
一石二鳥なんだよ、将来はビジネスマンになりたい」
そう何の屈託もなく話してくれた。

その日、ホテルの部屋に戻った私と友人はお互い言葉少なになっていた。
彼は学費と生活費を稼ぐため、友人と遊ぶ時間も、睡眠時間も削って働いていた。
その一方で私たちは親に学費を出してもらい、仕送りまでしてもらいながら、
旅行をしていた。

自分たちがあまりにも甘やかされ、
恵まれすぎた境遇にいることを、改めて思い知って、
それを当り前と思ってきたことに心が痛んだ。
その土地のことを見て周って、多少でも知った気になっていた
私たちっていったい何様よね、と二人で話した。

旅行に出ると、それはそれはいろいろな出会いがある。
ほんのわずかに交わした言葉が、いまでも記憶に残っている。

日本に帰ったら、両親が激怒していた。
どうせ反対されるだろうと思っていたので
実はこの旅行は親に無断で勝手に行った。
泊まるホテルも決まっていない状態で
女の子二人で、ふら～っと海外に行っていたのだから
怒られるのも当然といえば当然かもしれないけど。

両親からは、海外旅行にいかせるために仕送りをしているのではない、
そんなに暇なら、自分で働いて卒業しなさい！といわれ、
本当に仕送りを止められてしまった。
というわけで、卒業までの数ヶ月間、私はバイト漬の毎日でした。