本ブログでは、時間外労働・深夜労働について触れている裁判例を紹介しています(つづき)。
2 第一審被告の主張
(一)タイムカードでは労働時間を把握できないこと
第一審被告は,昭和53年ごろから,業務遂行における社員の裁量を認めて,定額の勤務手当をもって時間外手当(残業代)に代えることにしていた。したがって,タイムカードにより勤務の管理を行う必要がなかった。しかし,その後もタイムカードの打刻を継続していたのは,遅刻チェックの意味でしかなく,打刻された時刻は出社時刻,退社時刻を意味するに過ぎない。後記のとおり,給与規程(〈証拠略〉)は就業規則として規範的効力を有するものではないから,第一審原告らが割増賃金(残業代)の請求を行うため立証を要するのは労働基準法上の労働時間のうち,法定労働時間を超える部分である。タイムカードで把握できるのは出退勤時刻に過ぎず,労働基準法上の労働時間を把握することはできない。確かに,第一審被告は契約社員に対し,タイムカードの始業・終業時刻をもとに時間外手当(残業代)を支払っていた。しかし,これら契約社員についてはタイムカードにより把握できる労働時間を労働契約上の労働時間(所定労働時間)として取り扱っていたということに過ぎず,第一審被告がタイムカードで第一審原告らの労働基準法上の労働時間を管理していた事実はない。タイムカードによって把握される労働時間が労働基準法上の労働時間に該当しないことは,外勤勤務の場合の交通機関による移動時間や,夕食時間についてもタイムカードの時間に含まれていることからも明らかである。
(二)第一審原告らの業務の大半,特に出張の場合等が労働基準法38条の2に定められた事業場外労働に該当すること
(1)第一審原告らが,出張・会議運営・面接運営・博覧会常駐や営業,打ち合わせなどの外勤業務に従事していたことは原判決別冊2より明らかである。特に出張日については,その労働実態を記載した「出張申請及び報告書」から推知される労働時間の始期及び終期と,タイムカードに記載された出・退勤時刻との間に齟齬が認められる。したがって,タイムカードでは労働時間の把握をできないことが明らかである。また,外出の際の黒板への記入や電話連絡が,第一審原告らの外勤中の労働時間を管理するためのものでないことも証拠上明らかである。
(2)そもそも,第一審被告は,前記のとおり,社員に業務遂行上の裁量権を認め,特に,出張日あるいは事業場を離れた営業や打ち合わせの場合などには,労働時間の配分・決定を社員各人に委ね,その労働実態を把握し得ない状況にあった。また,会議の設営・運営や,博覧会常駐業務なども,第一審被告が,これらに従事する者の労働実態を把握し得る状況にはなかった。したがって,いずれも労働基準法38条の2第1項により「所定労働時間労働したものとみなす」場合に該当する。仮に,労働時間の算定ができるとしても,タイムカードが労働基準法上の労働時間の把握に役立たないことは明らかである。したがって,タイムカードで労働時間を算定することは許されない。
(三)給与規程(〈証拠略〉)に就業規則としての効力がなく,給与規程に基づく割増賃金(残業代)の請求が許されないこと
就業規則が労働契約の内容を規律する法的効力を有するためには,使用者が就業規則を作成して,労働者の代表者の意見を聴取し,労働基準監督署長に届出,労働者に対して周知する等の法定の手続(労働基準法90条,106条)を踏まなければならない。
本件で,給与規程を作成提出したのは,労働基準監督署の指導に形式的に適合させることを目的としていた。同給与規程の作成に当たり,第一審被告に事業場の労働条件等を規律する規範を作成する意思はなく,第一審原告ら関西支社の社員にその内容を周知させたこともないから,給与規程(〈証拠略〉)に就業規則としての法規範性を認めることはできない。
(四)第一審原告斉藤,同萩原政彦,同久保田,同武内及び同八巻が,いずれも労働基準法41条2号の「管理監督者」に該当すること
(1)右「管理監督者」に該当するといえるためには,〔1〕「経営方針の決定に参画し,あるいは労務管理上の指揮権限を有するなど,その実態から見て経営者と一体的立場にあること」,〔2〕「出退勤について厳格な規制を受けていないこと」以上の2要件が充たされなければならない。
(2)右斉藤らは,いずれもセクションの責任者であり,一次考課者あるいは二次考課者として部下の人事考課を行い,更に,上長として部下の勤務・勤怠に関する届書を承認していた。したがって,採用に関与しているとはいえないにしても,部下の労務管理に関与し,右〔1〕の要件を充足していたことが明らかである。
(3)たとえ,重役出勤的な自由を有さなくても,自己の裁量で仕事を進め,出退勤について自己管理できる権限を有する者で,所定時刻に遅れて出社したり,所定時刻よりも早く退社したからといって,それが遅刻早退等の勤務成績として昇給・昇格・一時金の査定要素として考慮されない者も,右(1)の〔2〕の要件を充たすものと解されている。右斉藤らはいずれも係長補佐以上の役職に就いた後に出退勤の自己管理が認められるようになり,就業規則に定める始業時刻以前に出社したか,就業時刻以後に退社したかを確認するために,タイムカードを打刻する必要がなかったのであり,「出退勤について厳格な規制を受けていなかった」ことが明らかである。
(五)付加金を命じることが許されないこと
第一審被告が,平成元年ごろから時間外手当(残業代)の支給を検討し始めたのは,勤務手当制度では上司が部下の時間管理を行わず,長時間労働が蔓延して,社員の健康管理や社員の定着率に問題が生じてきたことに主たる理由がある。時間外手当(残業代)は労働基準法37条の計算による支給が唯一ではなく,定額手当であっても,同条で定めた計算額を下回らなければ違法ではないものと解され,第一審被告が定額手当を採用したことにも合理的な根拠があるので,付加金の支払いを命じることは相当ではない。
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2 第一審被告の主張
(一)タイムカードでは労働時間を把握できないこと
第一審被告は,昭和53年ごろから,業務遂行における社員の裁量を認めて,定額の勤務手当をもって時間外手当(残業代)に代えることにしていた。したがって,タイムカードにより勤務の管理を行う必要がなかった。しかし,その後もタイムカードの打刻を継続していたのは,遅刻チェックの意味でしかなく,打刻された時刻は出社時刻,退社時刻を意味するに過ぎない。後記のとおり,給与規程(〈証拠略〉)は就業規則として規範的効力を有するものではないから,第一審原告らが割増賃金(残業代)の請求を行うため立証を要するのは労働基準法上の労働時間のうち,法定労働時間を超える部分である。タイムカードで把握できるのは出退勤時刻に過ぎず,労働基準法上の労働時間を把握することはできない。確かに,第一審被告は契約社員に対し,タイムカードの始業・終業時刻をもとに時間外手当(残業代)を支払っていた。しかし,これら契約社員についてはタイムカードにより把握できる労働時間を労働契約上の労働時間(所定労働時間)として取り扱っていたということに過ぎず,第一審被告がタイムカードで第一審原告らの労働基準法上の労働時間を管理していた事実はない。タイムカードによって把握される労働時間が労働基準法上の労働時間に該当しないことは,外勤勤務の場合の交通機関による移動時間や,夕食時間についてもタイムカードの時間に含まれていることからも明らかである。
(二)第一審原告らの業務の大半,特に出張の場合等が労働基準法38条の2に定められた事業場外労働に該当すること
(1)第一審原告らが,出張・会議運営・面接運営・博覧会常駐や営業,打ち合わせなどの外勤業務に従事していたことは原判決別冊2より明らかである。特に出張日については,その労働実態を記載した「出張申請及び報告書」から推知される労働時間の始期及び終期と,タイムカードに記載された出・退勤時刻との間に齟齬が認められる。したがって,タイムカードでは労働時間の把握をできないことが明らかである。また,外出の際の黒板への記入や電話連絡が,第一審原告らの外勤中の労働時間を管理するためのものでないことも証拠上明らかである。
(2)そもそも,第一審被告は,前記のとおり,社員に業務遂行上の裁量権を認め,特に,出張日あるいは事業場を離れた営業や打ち合わせの場合などには,労働時間の配分・決定を社員各人に委ね,その労働実態を把握し得ない状況にあった。また,会議の設営・運営や,博覧会常駐業務なども,第一審被告が,これらに従事する者の労働実態を把握し得る状況にはなかった。したがって,いずれも労働基準法38条の2第1項により「所定労働時間労働したものとみなす」場合に該当する。仮に,労働時間の算定ができるとしても,タイムカードが労働基準法上の労働時間の把握に役立たないことは明らかである。したがって,タイムカードで労働時間を算定することは許されない。
(三)給与規程(〈証拠略〉)に就業規則としての効力がなく,給与規程に基づく割増賃金(残業代)の請求が許されないこと
就業規則が労働契約の内容を規律する法的効力を有するためには,使用者が就業規則を作成して,労働者の代表者の意見を聴取し,労働基準監督署長に届出,労働者に対して周知する等の法定の手続(労働基準法90条,106条)を踏まなければならない。
本件で,給与規程を作成提出したのは,労働基準監督署の指導に形式的に適合させることを目的としていた。同給与規程の作成に当たり,第一審被告に事業場の労働条件等を規律する規範を作成する意思はなく,第一審原告ら関西支社の社員にその内容を周知させたこともないから,給与規程(〈証拠略〉)に就業規則としての法規範性を認めることはできない。
(四)第一審原告斉藤,同萩原政彦,同久保田,同武内及び同八巻が,いずれも労働基準法41条2号の「管理監督者」に該当すること
(1)右「管理監督者」に該当するといえるためには,〔1〕「経営方針の決定に参画し,あるいは労務管理上の指揮権限を有するなど,その実態から見て経営者と一体的立場にあること」,〔2〕「出退勤について厳格な規制を受けていないこと」以上の2要件が充たされなければならない。
(2)右斉藤らは,いずれもセクションの責任者であり,一次考課者あるいは二次考課者として部下の人事考課を行い,更に,上長として部下の勤務・勤怠に関する届書を承認していた。したがって,採用に関与しているとはいえないにしても,部下の労務管理に関与し,右〔1〕の要件を充足していたことが明らかである。
(3)たとえ,重役出勤的な自由を有さなくても,自己の裁量で仕事を進め,出退勤について自己管理できる権限を有する者で,所定時刻に遅れて出社したり,所定時刻よりも早く退社したからといって,それが遅刻早退等の勤務成績として昇給・昇格・一時金の査定要素として考慮されない者も,右(1)の〔2〕の要件を充たすものと解されている。右斉藤らはいずれも係長補佐以上の役職に就いた後に出退勤の自己管理が認められるようになり,就業規則に定める始業時刻以前に出社したか,就業時刻以後に退社したかを確認するために,タイムカードを打刻する必要がなかったのであり,「出退勤について厳格な規制を受けていなかった」ことが明らかである。
(五)付加金を命じることが許されないこと
第一審被告が,平成元年ごろから時間外手当(残業代)の支給を検討し始めたのは,勤務手当制度では上司が部下の時間管理を行わず,長時間労働が蔓延して,社員の健康管理や社員の定着率に問題が生じてきたことに主たる理由がある。時間外手当(残業代)は労働基準法37条の計算による支給が唯一ではなく,定額手当であっても,同条で定めた計算額を下回らなければ違法ではないものと解され,第一審被告が定額手当を採用したことにも合理的な根拠があるので,付加金の支払いを命じることは相当ではない。
企業の方で、残業代請求についてご不明な点があれば、企業法務に強い顧問弁護士にご相談ください。その他にも、個人の方で、交通事故、解雇、原状回復義務・敷金返還請求や借金の返済、ご家族の逮捕などの刑事弁護士の事件、遺言相続などでお困りの方は、弁護士にご相談ください。