これまでにも、生乳(牛やヤギの乳のうち搾ったままで何の加工も行っていないもの)についておかしな規制や仕組みについて記事にしてきました。今回は生乳の価格について調べたことを書いていきます。

 

酪農家で生産された生乳の価格(乳価)は、下の図のように用途によって異なっています。価格は各地域の指定団体(詳しくは「生乳取引は農協が独占」 を参照)と乳業メーカーの交渉で決まります。

用途別乳価

注)用途別の乳価(取引価格)はホクレン農業協同組合連合会の価格。

 

乳業メーカーから指定団体には、用途別の生乳量とそれぞれの乳価を掛け合わせた金額が支払われます。

 

そして、指定団体から各生産者に支払われる金額は、次のようにして毎月決まります。

 

乳業メーカーから指定団体に支払った金額から、必要経費(指定団体が生乳販売するための経費、生乳の検査料、物流費等)を差し引き、それに政府からの補給金を加算した額を算出します。その額を、その月における指定団体の生乳取引数量で割ってプール乳価というものを計算します。そのプール乳価に各酪農家との取引数量を掛けて、各酪農家へ支払われる金額が決まります。

 

生乳の乳脂肪分や無脂乳固形分などにより格差はありますが、基本的には各酪農家へは同一の単価で支払われることになります。

 

これには幾つかの問題があります。まずは、酪農家が生乳を出荷した段階では、酪農家が受け取る生乳の単価が分からないため、収入が幾らになるのか分からないということです。同じ生乳を同量出荷しても、指定団体と乳業メーカーの用途別の割合によって単価が変わってしまいます。需給状況によって単価が変わるのは他の取引でもあることですが、出荷した段階で単価が分からないということは普通の取引ではあまり無いことだと思います。

 

多くの生産者はどのような用途で生乳が販売されるかが分からずに生乳を生産することになり、生乳生産と牛乳・乳製品市場が連動しづらくなるという問題が生じてしまいます。

 

また、工夫や努力をして品質の良い生乳を生産しても、他の酪農家と同じ単価になってしまいます。成分によって若干違いはありますが、努力して良い生乳を作っても収入に反映されないのでは、酪農家のやる気を失わせているようなものです。

 

酪農家の中には、頑張って品質の良い生乳を生産した分については直接乳業メーカーに納入して高い単価で引き取ってもらい、その他の普通の生乳については指定団体に納入しようと考えるところが出てくるはずです。手間をかけて良い物を作ったら、高い値段で売ることは商売をする上では当たり前のことです。

 

しかし、日本の酪農家にはこの当たり前のことができません。生産した生乳は、全て指定団体に出荷しないといけないからです。一部でも直接乳牛メーカーに直接出荷したら、指定団体は生乳を引き取らない決まりになっています。

 

日本の農業政策には、頑張って努力や工夫をする農家の邪魔をするものが多いのですが、このように酪農についても同じような規制や仕組みが数多くあります。そして、それを推進しているのが農協です。農協というのは、誰のための組織なのかと思ってしまいます。


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