世界中の国同士の経済的結びつきは以前に比べて非常に強くなってきており、グローバリズムが進んでいると言われています。それではグローバリズムとは、一体どのようなものなのでしょうか?


グローバリズムには、以下の三つについて国境を越えた動きを完全に自由化するという考え方があります。
 

・労働者の移動

・モノやサービスの移動(輸出入)

・資本の移動(直接投資の自由化、証券投資の自由化)


これら生産の三要素と言われる「ヒト」「モノ」「カネ」が、国境を越えて自由自在に動くことができることを認めるというのがグローバリズムということになります。

 

グローバリズムでは、ヒト、モノ、カネが国境を越えて自由に動き回ることができるほど経済が発展すると考えられているので、より経済発展させるためにこれらの移動の制限を取り除くことを求めています。

 

では、グローバリズムによって、どんな影響が出るのでしょうか?

 

最大の問題は、ある国がバブル崩壊や財政破綻などの危機に陥ると、資本的関係がある他国に伝播して問題が世界中に拡散してしまうことです。平成21年に起きたアメリカのリーマンショックでは、世界中が経済危機になってしまいました。

 

国境を越えて労働者の移動が自由になると、自国よりも賃金水準が低い国から労働者が押し寄せることになります。それにより自国の雇用が奪われ、賃金水準も低くなってしまいます。

 

モノやサービスの移動が自由になると、より安い国からモノを買うようになります。自国のモノを買わずに外国からモノを買うようになれば、当然自国の生産が減少して国全体の所得は少なくなり、雇用も縮小します。

 

国境を越えて資本の移動が自由になって直接投資の自由化が可能になると、企業は自国ではなく最も儲かる国に工場を移すことになります。従って、コスト(≒人件費)がより低いところに工場が作られます。そうなれば、自国の働き場所が失われてしまいます。

 

証券投資が自由になると、企業の株主は自国民だけではなく外国人となることも可能になり、株主の大半が外国人投資家となっていきます。すると、企業の儲けが外国人投資家に流出することになります。

 

つまり、グローバリズムが進み国境を越えて労働者・モノやサービス・資本の移動が自由になると、企業が儲かってもそれが国民に行き渡らなくなり、企業の利益≠国(または国民)の利益ということが起こるようになります。

 

 

ハーバード大学の経済学者ダニ・ロドリックが提唱した世界経済の政治的トリレンマという概念があります。それは、以下の三つを同時に達成することは不可能だということです。

 

①グローバル化

②国家主権

③民主政治(民主主義)


これら三つのうち、同時に達成できるのは二つまでです。

 

先進諸国の中で、最もグローバル化が進んでいるのはユーロ圏の国々です。ユーロ圏では①と③を達成しましたが、グローバル化を達成するために加盟国の国家主権が損なわれています。各国には通貨発行権がなく、ユーロの国際協定に合わせて各国が法律を制定・施行しなければなりません。

 

先進国以外では中国のグローバル化が進んでいます。中国は①と②は同時に達成していますが、③の民主主義は全く達成できていません。中国は独裁国家ですので、国民が痛みを受けても政権を交代させることができません。実際に毎年10万件以上の暴動が各地で発生していますが、共産党政権が代わることはありません。

 

日本は②と③は達成していますが、①のグローバル化はまだ進んでいません。しかし、徐々にグローバル化を推進しようとしている勢力があり、国家主権を失わせるような動きを進めようとしています。TPPを安易に受け入れてしまったり移民受入政策をとったりすれば、国家主権が急速に失われてグローバル化が進むことになります。

 


特にTPPに含まれているISD条項は国家主権を損なわせるものです。ISD条項とは、ある国が施行した政策によって他国の投資家が不利益を被ったときに、世界銀行傘下の国際投資紛争解決センターに訴えることができる制度です。ここでは、政府の政策が投 資家にどれだけの被害を与えたのかについてだけが審査されます。公共の利益のために実施した政策であるかどうかは関係ありません。この条項は、国家主権を著しく損なわせるものです。

 

アメリカは、ユーロ圏ほどグローバル化は達成されていなく、かろうじて ②と③は達成している状態です。しかし、選挙で選ばれた政権が、国民ではなくウォール街など一部の金持ちの意向に従わざるを得なくなっており、民主主義が 脅かされてきています。大統領選に勝つためには、どれだけ多くの資金を集められるかがポイントになってきているのも、民主主義が損なわれてきていることに 繋がっています。

 

「ウォール街を占拠せよ」を合言葉に、アメリカ経済界や政界に対して行われている抗議運動は、まさにグローバル化への民衆の抵抗です。

 

 

グローバル化によって利益を享受できる人は、「グローバリズムは避けることができないもの」「グローバル化は良いことだ」などと言いますが、そのようなことは鵜呑みにしてはいけません。上記の世界経済の政治的トリレンマにあるように、「グローバル化」「国家主権」「民主主義」が同時に達成できないのであれば、「国家主権」と「民主主義」を選択するべきではないでしょうか。「国家主権」や「民主主義」を失ってまで、「グローバル化」を達成する価値はありません。グローバリズムという意味を良く理解せず、グローバリズムを安易に受け入れてしまうと、大きなものを失ってしまうことになってしまいます。


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