農林水産省は、食料自給率が低いと万が一輸入がストップした場合に国民の多くが飢えてしまう事態になるため、自給率を上げて国民の食料安全保障を盤石にしなければならないと盛んに主張しています。

 

過去に記事で書いたように食料自給率という指標は非常にいかがわしい物なのですが(「日本の食料自給率は 69% 「食料自給率を上げる方法」 参照)、国内産で賄える食料が少なければ不安に感じることは確かです。

 

今回は、乳製品であるバターとチーズを題材として、食料安全保障について考えて見たいと思います。

 

 

昨年はバター不足になり、一時はスーパーなどの店頭からバターが消えてしまうようなことも起こりました。バターが不足した理由は、農林水産省の政策ミスによるものが大きいと先日の記事でも書きました(「バター不足は農水省のおかげ?」 参照)。

 

そして、バター不足になったのは平成26年だけでありませんでした。平成20年と平成23年にも起きていました。

 

一方、同じ乳製品のチーズについては、品不足になったことはほとんどありません。同じ生乳を原料にしているのに、どうしてこのような違いがあるのでしょうか。

 

バターとチーズについては、国産の割合が大きく異なっています。下のグラフは、バターとチーズの国産と輸入の供給量の推移を現したものです。

バター供給量 チーズ供給量

資料出所:農畜産業振興機構「畜産物の需給関係の諸統計データ」
注)チーズ生産量については、国内産プロセスチーズの生産量をナチュラルチーズの国内生産量と輸入量とで按分。

 

バターは89割とほとんどが国産で、国産100%の年もありました。チーズについては、逆に輸入の方が圧倒的に多く、国産は2割弱となっています。

 

バターとチーズで国産の割合が逆転しているのは、輸入するときの関税が影響しています。

 

バターは一次税率の35%に加えて、一定数量(600トン)を超えると二次税率として29.8%1キロ当たり179円の関税がかかります。それに加えて、輸入差益として1キロ当たり1,159円が上乗せされます。

 

チーズは、ナチュラルチーズは35%、プロセスチーズは40%となっています。プロセスチーズの原料としてナチュラルチーズを輸入し、更に国産のナチュラルチーズも原料として使用すると、一定量までは無税となります。そして、チーズを輸入するときには輸入差益を支払う必要はありません。

 

バターを輸入する場合はチーズを輸入するときに比べてかなり余計にお金を支払う必要があるため、バターの輸入は少なくてチーズの輸入が多くなっています。

 

バターは国産に大きく依存し、チーズは輸入に大きく依存しているということになっています。しかし、輸入が少ないバターは品不足に何回もなっていますが、輸入が多いチーズは品不足になっていません。

 

また、バターもチーズも供給量が一定ではなく波があります。これは需要が一定ではないから、年によって供給量が変化しているからですが、その需給の調整はバターもチーズも輸入によって行っています。

 

それなのに何故バターだけが品不足になってしまうのでしょうか。チーズは民間業者が輸入しているのですが、バターは民間業者が輸入することができず農業産業振興機構という農林水産省傘下の団体だけが輸入することができ、国(農林水産省)が輸入を管理しています。

 

バターの在庫量や生乳の生産量などから、ある程度バターが不足することは事前に分かっていたのですが、農林水産省の判断が遅く、バターが不足して店頭から消えて初めて輸入することをようやく決めました。民間企業であれば、品不足になるというのは商売のチャンスですので、それを見逃さずにすぐに輸入して商品を供給します。

 

商売に疎くビジネス感覚を持ち合わせていない国が輸入を独占していることも、バター不足となった一因だと思います。国が輸入を独占しているとは、まるで社会主義国家みたいですね。

 

更に、関税であれば一般会計の歳入となりますが、輸入差益は特別会計の歳入となり、使い道が不明朗になる可能性が高くなります。国内産業の保護という観点から、輸入と国産の価格差を調整するのであれば、輸入差益は全廃して全て関税にするべきです。

 

 

農林水産省は、食糧安全保障のためには農産物の国産割合を高めることが必要だと主張しています。しかし、バターとチーズを見ていると、単純にそうとは言えないのではないでしょうか。


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