かかと
かかと かかとを失くした あれから 店頭に並ぶ パンプスやサンダル 夕べの記憶の岸にさえ つま先を差し入れてみるけれど かかとの辺りであきらめて (ひとつふたつ季節のまえ この足を愛おしく懐に抱えて 男は温めたのだったか) 裸足のまま アスファルトに揺らぐ 初夏の木蔭に脚を踏み入れ 人混みを抜ける ワンピースの裾が 旗のように白く翻る わたしは前のめりに つぎつぎと歩を繰って 隣町まで その向こうまで ズンと頭を突き出して 越えてゆく 小石だらけの坂の中腹で 流れのはやい雲を見上げた 風が砂ぼこりを巻いて 小さな湾に 正午の陽が照り返す (耳の奥の方で 男が爪を切るのが 聴こえた) つま先でしゃがんで 少し泣いた * 総合詩誌「PO」180号掲載:竹林館(2021年2月20日発行)