短編小説 「 金吾の相場奮闘記 」 ⑮ご好評に付き、再度掲載




 

金吾が一人前になるまで、5年を要した。 既に二十歳を過ぎ、場立ちとしても活躍を始めた。 ヤスさん直伝の相場感は、金吾に見事に宿った。ただ金吾には物足りなさがあった。相場の世界では欲のままに生きた人間は身を滅ぼしていくのであるが、命をかけるまでとは言わないが、金吾にはその覚悟があったからだ。


会社には大きな不満はなかった。自分を立派に育ててくれた感謝の気持ちもあった。


時に、金吾の腕を見込んでの他社からの勧誘もあったが、金吾には魅力に思えなかった。 金吾が奮い立つまでの強い気持ちを持つにいたったのは、小百合との出会いがあったからである。


また、時代も変わってしまった。 会社の番頭さんのことは、専務と呼ぶようになったし、経済の発展は会社をどんどん大きくしていった。中ノ島証券も例外ではなく、支店を開設するに至ったのである。金吾の実家も商売を再開し、順調に行っていた。母親からは、家業を手伝って欲しいとの要望もあったが、奉公に出した手前と紹介者、それに中ノ島証券への義理立てもあった。


何よりも、今の自分は、まだ小百合と釣り合う男ではないというのが、気持ちが落ち着かないこと原因であることは、心のどこかで充分にわかっていた。