短編 金と銀の器 ⑯ FIn


勇吉を看取って、60年が経ち、嘉吉と弥生に敬老のお祝いとして、『金と銀の器』が渡された。


弥生は、嘉吉との間に5人の子供をもうけた。だが嘉吉との人生は波乱万丈だったのかも知れない。勇吉が亡くなる半年前に、経営していた海運業は、船の難破によって倒産へと追い込まれた。積荷に対する本来の責任は、運行業者にあったのだが、勇吉はその全ての代償をやってのけたのだ。まさに全財産を叩いてである。勇吉が亡くなり、まさに裸一環からのスタートになったわけであるが、勇吉の行った行為によって、顧客側から再建の要望が高まった。金策に苦慮した頃に、弥生の実家から多額の資金が届いた、そう、新婚の日に父から受け取った資金である。弥生の父は、姉の旦那に「このお金は大切な人からの預かり物で、その家族に何か困ったことがあれば必ず役に立てる様に。」と託されていたとの事だった。


今、こうやって5人の子供たちは、それぞれ独立し、都会に出て行ったが、皆がそろい、孫や曾孫までが囲んでくれている。


またこの宴の席は、自分の孫と生家の孫との結婚式であり、再び、両家が結びつくことを心から嬉しく思った。


そして、弥生は、嘉吉の手を握り、「ありがとう。」と呟いた。



終わり