短編 金と銀の器 ⑧
大金を目の前にして、弥生と嘉吉は思案にくれた。
そこで弥生の支度金分程度を勇吉へのお祝いの資金から抜き出して、残りは全て預金として、弥生の父に預ける事とした。
嘉吉は、九州で海運業を営んでおり、勇吉の努力もあって生活は豊かであった。弥生の嫁ぎ先としては、申し分のない財力は有していた。ただ、不便なことは離島であり、都会の真ん中で育った弥生にとっては、不便さと寂しさだけが心配であった。
婚礼から3日が経ち、弥生と嘉吉は汽車にのって、九州を目指した。今でこそ新婚旅行が普通であるが、汽車が九州に近づく毎に弥生と嘉吉の距離も縮まっていった。
「嘉吉さん、嘉吉さんの住んでる島って、綺麗な島ですか?」
「そうですね。たぶん綺麗だと思います。でも、驚きますよ。私は漁師ではありませんが、島のほとんどは漁師です。だから、魚のにおいもしますよ。」
「他に何か、ありますか?」
「そうですね。あとは方言です。田舎では私もこんな話し方はしません。仕事をする上で私は父に叩き込まれました。言葉遣いは、商いをする時に大事だって。」
嘉吉の言葉が事務的な感じがするのは、そこからきているのか、と弥生は悟ったが、方言に至っては、全く予期していなかったので、戸惑いを隠せなかった。