【映画】カムイのうた~”カムイ”映画で知るアイヌの歴史 | 鶏のブログ

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【監督】菅原浩志

【制作国】日本

【上映時間】126分

【配給】トリプルアップ

【出演】吉田美月喜(北里テル)

    望月歩(一三四)

    島田歌穂(イヌイェマツ)

    加藤雅也(兼田教授)

【公式サイト】
先日観た「ゴールデンカムイ」に続いて、”カムイ”繋がりで本作「カムイのうた」を鑑賞。ゴルカムはアイヌ文化を詳細に取材した上でエンタメに仕上げているけど、本作は実在のアイヌ民族の女性である知里幸恵をモデルに、彼女の19年という短い人生をドラマ化したものでした。時代的にも、ゴルカムは日露戦争直後の1900年代後半以降のお話を描いていましたが、知里幸恵は1903年生まれで1922年に亡くなっているので、ほぼ同時期のお話ということになります。
ただ映画の主人公は、知里幸恵という名前ではなく、”北里テル”と名付けられており、また「ユーカラの研究」や「アイヌ文学」などの著作があるアイヌ文化研究の第一人者であり、知里幸恵を東京に呼び寄せた言語学者の金田一京助も、”兼田教授”として登場していました。この辺り本名を使わなかったのは、フィクションを交えているという部分もあるでしょうが、知里幸恵の弟で、後に言語学者となり北海道大学の教授にもなった知里真志保が登場していないことや、作中アイヌの墓を荒らして遺骨や装飾品を盗掘させ、研究材料にしていた登場人物である東京帝大の”小嶋教授”や、アイヌ差別をする教師や軍人にも、恐らくはモデルとなった実在の人物がいるであろうことが影響しているものと勝手に推測したところです。
 
ところでゴルカムと本作を立て続けに観て思った疑問が、アイヌの人たちの名前って、いつから日本式になったんだろうか、ということ。1903年生まれの知里幸恵にしても、本作の主人公である北里テルにしても、日本式の「苗字+名前」となっていますが、アイヌの口承文芸の伝承者であり、北里テルの育ての親である彼女の叔母は、”イヌイェマツ”として登場しました。因みに”イヌイェマツ”のモデルとなり、1875年生まれの知里幸恵の叔母の名前は金成マツ、アイヌ名・イメカヌというそうです。アイヌ名がイメカヌ、日本名が金成マツなので、本作ではイヌイェマツにしたんですね。
で、ちょっとネットで調べてみると、明治政府がいわゆる”壬申戸籍”制度を施行した1872年以降、アイヌの人達も戸籍に編入されて行き、その過程で氏姓のないアイヌの人達に対して”創氏改名”が推進(強制というべきかな)されたようです。なので、金成マツ(イメカヌ)が生まれた1875年頃は、まずはアイヌ式の命名がなされ、その後戸籍を作ったために金成マツという名前が出来たのではないかと推察されます。ただ本作の登場人物であるイヌイェマツは、あくまでイヌイェマツであり、日本式の名前は登場しませんでした。創氏改名前後の端境期に生きたアイヌの人達は、アイヌ名で呼ばれることが多かったんでしょうかね?
因みにゴルカムのヒロインであるアシリパは、”不死身の杉元”に出会った1900年代後半において10歳から12歳くらいの年齢なので、1890年代後半の生まれと推測されます。従って、イヌイェマツと違って完全に戸籍制度が広まってから生まれたと思われる訳ですが、依然としてアシリパという名前でした。これまたネットで調べると、彼女の日本名(戸籍名)は”小蝶辺明日子”というのだそうで、そういう意味では戸籍制度が広まった後も、アイヌ名を名付ける習慣が一定程度続いたということなのでしょうか。
ただ1903年生まれの知里幸恵には、(ネットで調べた限り)アイヌ名がないようなので、徐々にそうした習慣がなくなっていったと解釈するのが妥当なのでしょうかね。
 
長々と映画の本筋から離れたことばかり書きましたが、勉強が出来た北里テルは、”土人学校”と呼ばれたアイヌ民族のための学校から女子職業学校に進学しますが、周りの差別にも遭って大変な苦労を強いられます。そんな中、アイヌ研究をする兼田教授がテルの下を訪れ、口承で伝えられた「ユーカラ」などの詩を文字に起こし、さらには和文に翻訳する作業を行います。幼馴染の一三四と恋心が芽生えるも、やがて東京の兼田教授の家に招かれて執筆を続けるテル。ようやく原稿が仕上がり、本の出版が決まった直後にテルは病死してしまうという悲しいお話でもありました。
本作の主題としては、アイヌ民族にこういう人がいたんだという記録映画的な側面を土台に、アイヌへの言われなき差別の実態を訴えた社会派的要素もあるものでした。また、作中イヌイェマツが唄う「ユーカラ」は、島田歌穂の歌唱力もあって非常に美しい曲であり、そうしたアイヌ文化を紹介する役割も担っていたと思います。
そうした点において、本作の意義は高く評価するものですが、肝心の物語性において、今ひとつ平板だったかなとも感じたところ。折角実名ではなく作品オリジナルの名前を使い、ある意味フィクションも織り交ぜていることを明示しているのだから、例えばテルと一三四との恋バナをもっとクローズアップして膨らませるなどしたら、もっと幅のある作品になっていたんじゃないかなと思いました。
さらに付け加えるとすれば、せっかくアイヌの話を映画化したのだから、アイヌ出身の役者さんを起用したらもっと良かったんじゃないかと感じたところですが、適役となる方がいらっしゃらないんですかね?
 
そんな訳で、本作の評価は★4とします。
 

総合評価:★★★★

詳細評価:

物語:★★★
配役:★★★★
演出:★★★
映像:★★★★