【映画】すばらしき世界~素っ裸シーンが多い元ヤクザ映画 | 鶏のブログ

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同時期に上映されている「ヤクザと家族」に引き続いての鑑賞となりました。

その結果分かったのは、「ヤクザと家族」と本作は、殺人罪で服役して10数年ぶりに刑務所から出て来た元ヤクザの男の人生を描くという点で、あたかも同じお題を与えられて作られたかと思えるほどに、状況設定が重なっていたということです。

 

そのほかにも、主人公がヤクザとしてバリバリ活躍していた(?)10数年以上前と比べて、出所して来た現在は、関係諸法令の厳格化もあって、足を洗っていてすらかなり生活が制限されるという社会状況が物語のベースにある点や、かつて付き合っていた女性とその子供(両方とも女の子)が主人公の精神安定に大きく関わっている点、少し笑ってしまうところでは、両者とも北村有起哉を起用している点、そして最後は主人公が亡くなってしまう点まで、実に類似点が多くありました。

 

2つの映画の相違点としては、「ヤクザと家族」の方が、親子杯を交わすシーンが出てくるなど、かつて隆盛を極めたいわゆるヤクザ映画的なシーンを意識的に使うことで、現在の廃れてしまったヤクザとの対比を描いていたのに対して、本作では主人公が現役時代から一匹狼であったこともあって、そうしたヤクザ映画的な味付けはあまり感じませんでした。そうした描く方から、前者は動的で、本作は静的な印象もありました。

 

強く感じたというか、面白いなと思ったのは、本作は主人公がよく裸になるところでした。主人公は、出所直前の刑務所内の検査でまず素っ裸になり、その後もかつて親交のあった親分の招待で入った「大人のお風呂」で、お相手の女性と2人でやはり素っ裸になり、次いで自分を取材している男性作家と、旅館の風呂場で素っ裸になっています。あと裸にはなりませんでしたが、スーパーで買い物をした際に万引きを疑われた時も、裸になって身の潔白を証明しようと脱ぎ始める場面もありました(結局はスーパーの店主が「分かりました」と言って裸にはなりませんでしたが)。

 

ここで役所広司という大俳優を、何故にこうまでもすっ裸にしたのかを考えてみたのですが、ヤクザというものを強調するためにしては、ちょっとインパクトが薄いように思えました。というのも、確かに主人公の上半身には彫り物があったり、かつての喧嘩の際に負った刀傷などがありますが、彫り物もそんなにド派手はものではないし、刀傷も繰り返し強調するほどのものではなかったからです。 むしろ、胸襟を開くという言葉通り、意識的か無意識的かは別にして、主人公が裸になることで、社会とコミュニケーションを取ろうという姿を現したかったのではないかと解釈したところです。勿論制作者の真の意図は不明ですが。

 

いずれにしても、先ほども触れたとおり、非常に動的な感じに描かれていた「ヤクザと家族」に比べると、本作は非常に静的で、見る順番としては正解だったかなという気がしましたが、両者ともに主人公の内面が上手く描かれていて、元ヤクザという属性を置いても感情移入できるような仕上がりになっており、心の奥底まで印象に残るいい作品だったと言えるかと思います。

 

評価:★★★★★