2019年インドネシア大統領選挙の候補者固まる | 鶏のブログ

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 来年(2019年)4月に実施される予定のインドネシア大統領選挙の候補者が出揃いました。

 締め切りである8月10日までに出馬を届け出た候補者は2名で、1人は現職のジョコ・ウィドド大統領(通称 ジョコウィ)、もう1人は野党・グリンドラの党首であり、スハルト大統領の元娘婿であるプラボウォ・スビアント氏。結果的に、前回2014年の大統領選挙と同じ顔触れの対決となりました。

 注目されていた副大統領候補には、ジョコウィ大統領が「インドネシア・ウラマー(聖職者)評議会(MUI:Majelis Ulama Indonesia)」の指導者であるマアルフ・アミン議長を指名する一方、プラボウォ氏は現ジャカルタ特別州副知事のサンディアガ・ウノ氏を指名しました。因みに現在の副大統領であるユスフ・カッラ氏は、ユドヨノ大統領時代の2004年からの5年間にも副大統領を務めており、3選禁止の規定に従って、今回は出馬出来ませんでした。

(写真中央がジョコウィ大統領。大統領の右側、白いジャケットを着ているのがマアルフMUI議長)

 

来春再選めざすインドネシア大統領、副大統領候補に宗教指導者指名

[ジャカルタ 9日 ロイター] - インドネシアのジョコ大統領は9日、2019年4月に行われる大統領選挙で共に戦う副大統領候補にイスラム穏健派組織「ウラマー評議会」のマアルフ・アミン議長(75)を指名した。 

両氏は、野党グリンドラ党のプラボウォ党首と、同氏が副大統領候補に指名したジャカルタ特別州副知事のサンディアガ・ウノ氏と対決することになる。

前回2014年の選挙では、ジョコ氏が国内の実業界や軍幹部と強いつながりを持つプラボウォ氏を破ったが、今回も両氏の対決となる。

ジョコ氏はマアルフ・アミン氏について「賢明な宗教家だ」と評価。同氏は大統領顧問や地方および国会の議員を務めた経歴を持つ。

プラボウォ氏の副大統領候補、サンディアガ・ウノ氏は、強い政府を作り、経済を構築し、食料価格を安定させるためプラボウォ氏に協力するとコメントした。 

https://jp.reuters.com/article/column-us-merger-idJPKBN1KV0LB 』

 

 世界第4位、2億5千万人の人口を抱えるインドネシアは、イスラム教徒が9割近くを占めていますが、1945年の建国以前に統一国家であったことは一度もありません。13000以上に上る島に、多民族、多宗教、多言語、多文化を持った人々が暮らしているのがインドネシアであり、たまたまオランダの植民地になったことから、1つの国家として独立することになりました。そうした建国の歴史があるため、インドネシアは特定の宗教を国が保護したり支持したりはしていません。ところが近年、世界的に過激なイスラム思想が広がりを見せているのと並行して、インドネシア国民の間でも急速にイスラム熱が高まっており、もともと宗教色の薄かったジョコウィ大統領も、今回の選挙では宗教指導者を副大統領候補に指名せざるを得なかったようです。

 

インドネシア大統領選 ジョコ氏が選んだ意外な副大統領候補

【ジャカルタ=鈴木淳】インドネシアのジョコ大統領は10日、ジャカルタ中心部の選挙管理委員会で2019年4月に行われる大統領選挙の候補者登録を行った。焦点だった副大統領候補にはイスラム教団体のトップ、マアルフ・アミン氏を選んだ。ジョコ氏は与党各党の意向をくみ、自身の希望とは違う伏兵を選んだようで、再選出馬は波乱含みの船出となった。

(後略)

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO34039530Q8A810C1FF8000/ 』

 

(中央左がジョコウィ大統領、右がプラボウォ氏。現在国民議会は全690議席ありますが、与党がジョコウィ大統領の属する闘争民主党(PDI-P:109議席)のほか、ゴルカル(Golongan Karya:91議席)や民族覚醒党(PKB:イスラム系:47議席)、開発統一党(PPP:イスラム系:39議席)、ナスデム党(Nasional Demokrat:36議席)で、野党がプラボウォ氏が属するグリンドラ(Gerindra:73議席)のほか、ユドヨノ前大統領の属していた民主主義者党(Demokrat:61議席)、国民信託党(PAN:48議席)、民族覚醒党(PKS:イスラム系:48議席)となっている。議席数はWikipediaを参照。)

 

 大統領とか知事、市長など、1人だけを選出する選挙の場合、一般的に考えると現職候補が有利と言われています。特に、大きなスキャンダルや、経済的な停滞がなければ、現職は非常に有利と考えられます。最近のインドネシア経済や(注1)、他国の例(注2)を見ても、それは明らかと思います。

 インドネシアの大統領選挙は、2004年に始まり、今回が4回目なので、まだあまり過去のデータはありませんが、2004年の第1回大統領選挙で選出されたスシロ・バンバン・ユドヨノ大統領は、2009年の選挙で再選されています。3選が禁止されているため、2014年の第3回選挙では新人のジョコウィ氏とプラボウォ氏が争うことになりましたが、今回は現職が出馬しているため、第2回のユドヨノ氏同様、ジョコウィ大統領が有利であることは間違いないと思われていました。

 

 そんなことは大統領本人も承知だったはずですが、敢えてマアルフ氏を副大統領候補にせざるを得なかったということは、イスラム熱の取り扱いを一歩間違えれば、再選が危ぶまれたと言うことを大統領が自覚していたからではないかと思われます。民主主義である以上、選挙に勝てなければ政治家としての活動が出来ないため、当選が最大の目的になりがちですが、本来政治家にとっては自らの政治信条が最重要なはずであり、その信条と実際の行動に、どれだけ整合性があるかが、その政治家を評価するうえで重要なポイントとなります。従って、今後の政治活動において、ジョコウィ大統領が宗教の影響を受けるようなことがあれば、彼の政治家としての評価が大きく変わることになることは確実です。もともとジョコウィ大統領は、政治変革や汚職の撲滅を掲げていましたが、今後ジョコウィ大統領がどういう行動を取るかが注目されるところです。

 

(注1)

 経済面からインドネシアを眺めてみると、アジア通貨危機の影響で1998年に成長率がマイナス13%に落ち込むという壊滅的な打撃を受けましたが、その後は順調に回復しています。リーマンショックの影響で2009年こそ一時的に成長率が大きくダウンしたものの、その後は5~6%程度の成長が続いています。失業率も2005年をピークにして減少傾向が続いており、1人当たりのGDPも、最近では4000米ドルを超えてきました。

 ジョコウィ氏が大統領に就任した2014年以降を見ても、ここに挙げたデータからは大統領の失点になるようなことはありません。従って今回の選挙では、普通に行けばジョコウィ氏が圧勝してもおかしくありません。

(参考 IMF World Economic Outlook Database 2018

 

(注2)

 第2次世界大戦後に行われたアメリカ大統領選挙において、現職が出馬した選挙は全部で9回。そのうち現職が敗れたのは、1976年のフォード大統領、1980年のカーター大統領、1992年のブッシュ(父)大統領の3回だけで、後の6回は現職が勝利しています。フォード大統領は、ウォーターゲート事件で辞任したニクソン大統領の跡を継いで、選挙を経ずして大統領に昇格したという非常に特殊な経緯がありました。カーター大統領は、経済政策の失敗や、1979年の駐イランアメリカ大使館人質事件の対応の拙さを指摘されてレーガン氏に敗れました。ブッシュ(父)大統領も、経済的な停滞が原因で敗れたと言われています。因みにブッシュ(父)氏が大統領に就任した1989年の失業率は5.3%でしたが、再選を期した1993年は6.9%にまで上昇していました。

 同じく第2次世界大戦後のフランス大統領選挙では、現職が4回出馬していますが、負けたのは2012年のサルコジ大統領の1回のみで、後の3回は現職が勝利しています。サルコジ大統領は、いわゆる新自由主義派でしたが、ブッシュ(父)大統領同様、在任期間中に失業率が上昇するなど、サルコジ政策に恩恵を受けない一般大衆の支持が得られなかったことや、自身の品格問題が取り沙汰されるなどして、再選を逃したと言われています。なお、サルコジ氏が大統領に就任した2007年の失業率は8.0%でしたが、再選を期した2012年の選挙時点では9.8%に上昇していました。

 戦後の米仏2か国の大統領選挙を見る限り、現職大統領が選挙に負けたことにはそれなりの理由がありました。しかしジョコウィ大統領には、政策面では大きな失点は見当たりません(日本を袖にした高速鉄道計画は、全く進捗していませんが)。特に各国の選挙に大きな影響を与えている経済面では、少なくともジョコウィ大統領だから駄目だ、という理由は、今のところ見当たりません。波乱要素があるとすれば、米仏大統領選挙では争点にならなかった「宗教」ということになるでしょうか。

 因みに東京都知事選挙においては、なんと現職が出馬した11回において、現職が全勝を収めています。