鶏のブログ

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観た映画、読んだ本などについてのメモです。
”ネタバレ”を含みがちなので、その点ご容赦下さいませ。

【監督】フレディ・マクドナルド

【原題】Sew Torn

【制作国】アメリカ・スイス合作

【上映時間】100分

【配給】シンカ

【出演】イブ・コノリー(バーバラ・ダゲン)

    カルム・ワーシー(ジョシュ)

    K・カラン(エンゲル)

    キャロライン・グッドオール(グレース)

【公式サイト】

「お針子」という言葉から、何となく昔の話なのか、あるいは「メイド・イン・バングラディシュ」のイメージからその辺りの話かと思ったら全く違いました。舞台はスイスの田舎町、母が考案した”喋る刺繍”を制作販売する店を継いだ主人公バーバラ(イブ・コノリー)が、麻薬売買に伴ういざこざに巻き込まれ、「完全犯罪」「通報」「直進」の選択をそれぞれ行うものの、いずれを選んでも最終的には死んでしまうという不幸なマルチバース物語でした。
 
ストーリー展開そのものはそこまで斬新ではありませんでしたが、本作の注目は何と言っても各パートでバーバラが見せる針や糸などの裁縫道具を使ったカラクリの面白さでした。彼女の愛車がフィアット500であることや、舞台がアルプス山麓の街で展開されるところから、ルパン三世を想起させるものでした。ただルパンと違いのは、バーバラのカラクリが見事なのに、最終的に彼女が必ず死んでしまうこと。この繰り返しは無間地獄に嵌った残念感がありつつも、完全にコメディの世界でした。
 
また良かったのは、各キャラクターがそれぞれ際立っていたこと。特に良かったのがバーバラのお客であるグレース(キャロライン・グッドオール)。3度目の結婚のためのウェディングドレスのボタン修理をバーバラに依頼していましたが、このボタンが落ちてしまったところが物語は幕を開けました。このグレースの結婚への執着が中々面白く、本作で一番注目したキャラクターでした。
主人公バーバラも、ルパンばりの見事なカラクリを瞬時に閃いて実行するところは凄いのに、最終的に成功しない「不運」ぶりは、これまた愛すべき存在として印象的に描かれていました。
 
そんな訳で、本作の評価は★4.0します。
 
総合評価:★★★★

 

詳細評価:

物語:★★★★
配役:★★★★
演出:★★★★★
映像:★★★★
音楽:★★★
 
今回鑑賞した新宿シネマカリテは、2026年1月12日をもって閉館するそうです。
度々訪れた映画館だけに、寂しい限りですね。
 

【監督】アリ・アスター

【原題】Eddington

【制作国】アメリカ

【上映時間】148分

【配給】ハピネットファントム・スタジオ

【出演】ホアキン・フェニックス(ジョー・クロス)

    ペドロ・パスカル(テッド・ガルシア)

    エマ・ストーン(ルイーズ・クロス)

    オースティン・バトラー(ヴァーノン・ジェファーソン)

【公式サイト】

 

ミッドサマー」、「ボーはおそれている」のアリ・アスター監督が、「ボーはおそれている」に続いてホアキン・フェニックスを主役に向かえた作品でした。コロナ禍が始まった直後の2020年5月、アメリカはニューメキシコ州の小さな町・エディントンで巻き起こる騒動を描いていました。コロナ禍におけるマスク着用の是非をはじめ、SNSで繰り広げられる炎上騒動、陰謀論、人種差別とそれに連なるBLM運動、古くからアメリカ社会に根深く言い伝えられる少女へのレイプ問題、大資本によるデータセンター建設の是非などなど、アメリカを中心とする現代世界が抱える諸問題をごった煮的にぶっこんだお話でした。

過去のアリ・アスター監督作品と比べると、「ミッドサマー」は完全に創作ホラーという感じであり、「ボーはおそれている」は病を抱える主人公の妄想と捉えれば現実のお話とは言えるものの、自分からはちょっと距離がある作品という印象だったのに対して、本作は完全に自分が住んでいる現実社会の延長のお話なので、逆に冷めた目で観てしまった感じでした。

また、今年5月頃にたて続けに上映された各国のコロナ物(「未完成の映画」(舞台は中国)、「季節はこのまま」(舞台はフランス)、「フロントライン」(舞台は日本))と比べると、コロナは端緒に過ぎない点が特徴でした。前述の通り、SNSの炎上とか陰謀論、人種差別なども盛り込んでいた結果、ちょっとテーマ性が散漫になってしまった印象もありました。

そんな枠組みの作品でしたが、主役のホアキン・フェニックスの演技は相変わらず素晴らしく、また彼の妻役だったエマ・ストーンの病がかった演技も流石であり、役者の演技は満足の行くものでした。
 
そんな訳で、本作の評価は★3.8とします。
 
総合評価:★★★★

 

詳細評価:

物語:★★★
配役:★★★★
演出:★★★★★
映像:★★★★
音楽:★★★

【監督】セピデ・ファルシ

【原題】Put Your Soul on Your Hand and Walk

【制作国】フランス・パレスチナ・イラン合作

【上映時間】113分

【配給】ユナイテッドピープル

【出演】セピデ・ファルシ

    ファトマ・ハッスーナ

【公式サイト】

先日観た『ネタニヤフ調書 汚職と戦争』がイスラエル側の視点から今般のイスラエル対ガザ紛争を描いていたのに対し、本作はガザ側の視点に立ったドキュメンタリーでした。イラン人のセピデ・ファルシ監督が、ガザ在住の24歳のフォトジャーナリストであるファトマ・ハッスーナにテレビ電話でインタビューしながら、戦時下のガザの様子を伝えていく構成で、2023年10月に始まり現在も続く紛争の実態を、2024年4月から1年間にわたる2人の対話を通して克明に描き出していました。

日々イスラエルの攻撃に晒されながらも、ガザの現状を記録し続けたファトマのレポートは、まさに歴史そのもの。その報告は胸を締めつける内容ばかりで、観ていても聞いていても涙を誘うと同時に、イスラエルへの怒りが改めて込み上げて来ました。特に「ネタニヤフ調書」によれば、イスラエル側が戦争継続に拘る理由はネタニヤフ首相の汚職に関する裁判を中断し、自らが牢獄に繋がれることを避けるためのものであると聞いているだけに、改めてネタニヤフ首相に対する怒りが込み上げて来ました。
時間の経過とともに通信状況も悪化し、最後に彼女は家族とともにイスラエル軍に殺されてしまうという結末には、悲しみ以上に無力感に襲われてしまいました。

「ネタニヤフ調書」と併せて観るべき作品であり、紛争の両側面がより鮮明に理解できる作品でした。

そんな訳で、本作の評価は★4.8とします。
 
総合評価:★★★★★

 

詳細評価:

物語:★★★★★
配役:★★★★★
演出:★★★★★
映像:★★★★
音楽:★★★★★