専門は嵐にアシストにつくよう指示し、治療に取り掛かった。専門は保存修復出身で形成を得意としている。

「田君、僕は歯科診療は芸術と思っている。僕の手から奏でるハーモニーが美しすぎて眠らないように」


なんてキザな奴だい!嵐はそう思いながらバキュームを持った。

確かに専門が踏むフットペダルもしなやかだ。そして女性の様な手つきがタービンを持ち、形成をし出した。

CRのトンネル窩洞だが、隅角を残しつつ確かに綺麗に形成をしている。


「ここからだ。」


専門はそう言いながら叢生歯にそっとマトリックスを入れてボンディングを塗布、光照射。シェードテイキングも見事に再現されていた。

流れる様に形成、充填と終わっておりなおかつそれは治療されたのかわからないほどの再現性であった。


「そうかい。じゃあ今度は俺の番だ。」


嵐は隣のユニットで治療していた側前(そくまえ)の肩を持って後ろにやり

「どいてくれ!俺がやる」

といいタービンを持った。


「なんだこいつは」


側前は不快感をあらわにしたが、専門が肩を叩き


「まあ観てやろうじゃないか」


と微笑んだ。


「医局長がそう言うなら」

と側前は引き下がった。


ちょうど患者は左下7番の頬側のカリエスを除去している最中でバーの届きにくい部位だ。


「私は着くわ」


二重瞼で大きな瞳でショートカットが似合う智子がそういい、アシストについた。


「なんでえ物好きだな」


嵐はそういうと


「あなた見どころがあるわ。あなたがどんな治療するか見たいの。」


目をくりくりさせながら智子は言った。


嵐は少し微笑んでから形成を始めた。

しかし多分8番のせいだろう。縁下にカリエスが進行していた。


「これは縁下にいってるな。根尖側移動が必要だ。

12番のブレードと剥離子を持ってきてくれ」


ハッピー歯科ではやらない治療だ。智子は戸惑ったが


「早く!」

叫ぶ嵐の気迫に負け智子は用意をした。


「遠心切開!イエテボリ風!」


叫びながら嵐は切開を加え手際よく剥離し智子のバキュームワークも手伝い、止血しながらの充填処置をすると


「バキン!」


急に停電になってしまった。暗さで何もみえずしかし嵐の手は動いていた。


しばらく経って復旧すると患者の口腔内は無事に縫合されていたが、停電時にバーが不用意に動き咄嗟に自分の指でガードしていた嵐の人差し指にバーが食い込み肉がえぐれていた。


「やるな。」


それを観ていた覆面をした白人歯科医師がつぶやいた。


つづく