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「寒くないか?」
「大丈夫。」
汗ばんだ肌を抱きしめ合い しばらく心地良い怠さに身を任せていた。だけどひんやりとした部屋の空気を感じれば 二人で布団に包まる。
私は大和さんの腕枕…どちらかが眠るまで他愛ない話をするこの時間が私は結構好きだ。
「ねぇ、さっきの話。生徒さんは大和さんに何を相談したの?」
「…あ~…。」
今夜の議題は既に決まっていた。大和さんが途中言いかけやめた、生徒さんの話だ。
「その生徒がさ……」
「うん。」
「……」
「…うん…」
ん?
話を聞きながら あ、そういえばと思い出す。いつだったか、大和さんのスーツのポケットに…。
あれって生徒さんが落とした物だったんだ…。
「…で、『男って愛が無くてもできるの?』だと。教師に聞くかよ、フツー。」
「それで、先生はなんて答えたんですか。」
肩先から顔を上げ 大和さんを凝視する。
「…まぁ。」
大和さんはクスッと笑いはしたけれど言葉を濁しバツが悪そうに瞳を揺らした。そのなんとも言えぬ表情に
でた…軽くショックを受けた。
「あー!あるって答えたんでしょ!」
「だってそうだろ!」
「それってどうなの??っていうか、私は…わっ」
ギシッ
「もうこの話止め。」
笑いながら覆い被さってきた。一方的に話を終わらせたのだ。私はあからさまに不機嫌になる。
「はぐらかした。」
「お前が怒ることねーじゃねぇか。お前には関係ねー話だ。」
誤魔化そうとしているのか 元々そのつもりだったのか キスをしようとする。私はスッと避け拗ねて見せたけれど、
「バカぶう子。観念しろ。」
「…う~…。」
チュッと落ちた可愛らしいキスと微笑みに私は弱く…。
・・・・
「先生教えて。」
「…セックスなんて元々んな綺麗なもんじゃねぇだろ。」
「え…。」
「お前の質問には迷わずイエスだな。」
オレに何を期待したのか。生徒はガクンと俯き口元をへの字にした。
「…でもアイツ、私のこと好きだって言ってたよ??」
「お前が自ら用意しなきゃならねー時点でアウトだ。お前の夢を知った上でそれなんだから お前のことなんてなんとも想っちゃいねー。」
グッと口を紡ぐ。その切なげな表情にキツかったかと一瞬思ったが、んな労りすぐに捨てた。
「お前も分かってんだろ。分かってるけど否定して欲しくてオレに聞いたんじゃねえのか。」
また泣きそうになる気配を感じため息をつく。オレは生徒の頭に手の平を乗せ 顔を覗き込み言った。
「セックスは相手によって満足度の度合いが違う。実際統計をとって結果が出てんだ。相手がどういった場合高いと思う?」
「…好きなひと…とか?」
「そう。好きなもん同士だったら、男女問わず性的満足度が高い。欲を発散するだけの行為に愛が付くかどうかで心身に与える影響が随分違うってことだ。つまり、当人同士の想い次第ってこと。」
「…想いなんてどうやって知るの?言葉を信用せずに見極めることなんて出来るの?」
「見極めようとしなくても自然と分かる。自分は相手を大事に思っているか、相手は自分を大事にしてくれているか…。結局セックスっつーのはコミュニケーションの延長だからな。傍に居れば分かる。」
「…。」
しばらく黙り込んでいた。だが一人頷き静かに微笑む。
「…分かった。」
「よし。」
ポンと頭を叩き 席を立った。
「はい、帰りなさい。」
なんでオレはこんな話を生徒に…ハァ。
早々に背を向けたが、
「先生、奥さんとのセックスの満足度が高いんだね。」
「は。」
今泣いた烏がもう笑ってやがる…生徒は鞄を手に持ちニヤニヤとオレを見上げていた。
「私が落としたアレ、先生にあげる。」
「あのなぁ~…」
「今夜もガンバ!!」
「大人をからかうんじゃねぇ!!」
・・・・
別に、***に話しても良かったのかもしれねーと思う。だけど別に話する必要もねーっつーか。
「いつまでぶぅ垂れてんだ?」
『愛が無くてもできる』とオレが答えたと見透かした***は、甘えようとするオレを何度もかわそうとしていた。
「ぶぅ垂れてない。」
「じゃなんだよ、このぷっくりしたほっぺは。」
「いつもです!」
覆い被さったまま頬を両手で抓れば 笑い払いのける。そしてオレを見つめながらどこか甘えたような顔をして言った。
「好きって言って欲しい。」
何を不安に思ったのか 今更んなこと…
「フッ…」
思わず笑ってしまう。…いや、照れくさくなった。
「またそういうこと言う…。っつーか、ぶう子から聞きてーなー。」
「えっ」
「オレ言われたことなくねーか?言って欲しいー。」
「あるよ!」
「いいから言っとけ。」
「なに、もぉ~!」
ベッドの上 いつまでもじゃれ合う。そのうち、じゃれ合うだけじゃ物足らなくなるオレなんだけど。
・・・・
相手を大事に思っているか、相手は自分を大事にしてくれているか
生徒に話しながら***を思い描いていた。過去の恋愛をオレは***に繋げ、***は今とひっくるめてそれを抱きしめた。
すれ違いに勘違い 言葉としなきゃ伝わらないことはあるし、伝えなきゃいけねー時は多分これからもあるだろう。…でも今、この瞬間の想いは言葉にしなくてもオレ達は分かってる。
分かってる…よな?だから
「あいしてる。」
今、どっちが言ったかなんて 拘る必要ねーよな。
★END★
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「ったく。調子に乗りやがって。」
なぁにが、『奥さんとのセックスの満足度は高いんだね』だ、オレの話してんじゃねぇんだよ…。
手を振り廊下を走る生徒の背を見ながらため息をついた。
「…。」
っつーか、んなもん、
「…針、振り切ってますけど。」
なんて答えたっつったら、***はどんな顔すんだろ?
★END★
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