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「行くぞ。」
「はい。」
小さなインカムを通して拓斗さん達に伝え…私たちはパーティ会場に足を踏み入れた。
流輝さんに再会したのは ミッション当日だ。
レストランで食事をした夜以来、お互い連絡を取らずにいた。あの夜
『どうでも良くはないよ。』
『あっそ。』
ソッポを向き それから大した会話もしなかった私たちはどうも初めての喧嘩中で
「…。」
金野家でのガーデンパーティー 広大な庭に派手やかな貴人達が集っているなかに身を染めても尚、
「…。」
き、気まずい…。
私は未だチラチラとしか瞳を合わせる事が出来なくて。
流輝さんあの時、明らかにムッとしたもんね…。
芸術バカでカタブツな性格が災いする。曾おじいちゃんが『白金の花嫁』を預けたのが誰なのか気になったとしても その人が探していると知ったとしても
あの場面で彼に反論するのは まるで阿笠くんを庇っているかのようだったとアパートに帰ってから猛反省をした。
それじゃなくても『深入りするな』と言われているのに…私ってばもう少し上手く気持ちを伝えられなかったかと まだ怒っているかなと今日会うのもドキドキとしていて。
だけど私と違って流輝さんは
「柳瀬様、お久しぶりです。」
「お久しぶりです。お元気でいらっしゃいましたか。」
年配な紳士に声を掛けられれば 流輝さんも超紳士、笑顔で腰に手を添え婚約者だと紹介してくれた。
「***、緊張しなくても良い。無理に会話に入らなくて良いからな。俺がサポートするから。」
「うん…」
耳元で囁かれれば…なんだか異空間に戸惑う私を常に守ってくれているようで。
少しずつ心が解きほぐされていく。流輝さんが好きだと改めて思ってしまう。
この前の夜のこと謝ろう。ちゃんと話しよう…
そう思っていた矢先の事だった。
・・・・
「つ、疲れた…」
会場から少し離れた廊下の片隅 午後の暖かい陽射しの下 立食パーティーを楽しむセレブ達を遠目に見ながら一休み
「喉が渇いたろ。緊張で。」
「ありがと…カラッカラだよ…。」
流輝さんは黄金色のシャンパンを持って来てくれた。
「内覧会の時間までもう少しあるしな。」
受付をした際に招待状と交換に小さなメッセージカードを渡される。
それには時間と場所とが描いてあった。それが内覧会への案内状…
「美味し…」
シャンパンで喉を潤し 改めて会場を見渡す。優雅にお酒と料理、会話を楽しんでいる人たちを見渡しながら
「住む世界が違うってこういうことを言うんだね…」
そう痛感していた。
夫人達は皆煌びやかな宝石を身につけ 華やかに着飾っている。私も流輝さんが用意してくれたドレスを身に纏ってはいるけれど
彼女達のように元々の気品はない。場慣れしていない様子は隠しきれなくて。
だけど流輝さんと結婚すればこういうパーティーにも足を運ぶ事になるだろう。私は務まるだろかと少し不安になる。
「心配すんな。」
この空間に窮屈そうにしている私に流輝さんは笑いながら背をポンと叩く。そして
「間違えなくお前が一番キレイだから。」
「プッ…。」
私の緊張を解そうとしてくれて。
やっと顔を見合わせ笑い合えた気がする。喧嘩中でも…ミッションの最中だからだとしても
「流輝さん。」
「ん?」
嬉しくて…恋しくて。
首を傾げる彼の腕をソッと掴み 上目遣いで見つめた。そして
「この前は…ごめんなさい。私、変にムキになって…」
胸の内を伝えた。
「いや、俺こそムキになった。悪かった。」
「え…」
流輝さんは私の手に手を添え見つめ返す。そしてフッと笑い
「なかなか『白金の花嫁』の情報も掴めずに少し焦っていたのかもしれない。俺ではない男と過ごすお前に…らしくねぇな、嫉妬とかな。」
「流輝さん…」
どこか照れくさそうな彼にまた胸ときめく。私こそ頬が赤く染まった。
「もしお前が他の男と…なんて考え出したらどうしようもなくてな。」
「もう…余計な心配だよ。」
顔を見合わせ微笑み合う。こんな場所でなかったら私は彼に抱きついていただろう
「私は流輝さんしか見ていないから…」
そう小声で…伝えた時だった。
「流輝さんっ」
はしゃいだ女性の声がヒールの音と共に背後から近づいてくる。
「いらしてくださったのね、嬉しい!」
ドン
「痛っ…」
遠慮もなく私と流輝さんのあいだに割って入った女性。その一瞬の図々しさに眉を潜めれば
「博物館で再会した時にはお仕事があるとおっしゃっていたでしょう?だからお会いできないかと諦めていたの。」
博物館??
うちのことだろうかと思いながらも全く私が視界に入っていない様子にあからさまにムッとしてしまう。
首元も胸元も大胆に見せるスリットドレス ヒールに高さがある 流輝さんと対等に並んで見栄えする姿勢の良さはまるでモデルさんのよう
キレイな人…明らかに場慣れしている様子に少したじろいでしまう。だけど
「来客者名簿に…同伴の方が婚約者とあったけれど…」
チラッと視線を向けられてもまだ苦笑いしか出来ない私
「ああ、そうだ。紹介するよ。」
流輝さんの腕に両手を添え 随分と密着する様子はまるでそちらこそ婚約者のようで…
「***、こちらは今回のパーティーの主催者金野様のお嬢様だ。」
「えっ」
慌ててお辞儀をした。だけど
「このたびはお招き頂きありがとうございま…」
「アナタ…ッ」
「え?」
彼女の美しい顔がみるみるうちに険しくなって
「えと…?」
私を凝視する大きな瞳にたじろぎそうになって…そして
「流輝さん、アナタ騙されてるわ!」
「は。」
そう言って彼の腕をギュッと掴まれれば
「私見たんだから!この人がレストランで男性とキスしているところ!」
「え…」
あ…
「間違えないから!」
…あぁ~…
私は固まってしまう。だって彼女は…そう、彼女はいつかの夜、阿笠くんと初めて食事に行った夜
「おいおい、待てよ。人違いだろ。」
「流輝さん騙されてるのよ!なんなのアナタ、どういうつもりなの?!」
…最悪だ…
あのレストランに居た…私たちを見ては笑っていた女性客の一人だと思い出した。
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