本来ならこの回で★END★なんだろうなぁ。
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「…俺は…その続きはなに?」
***は口元に笑みを浮かべている。だが唇は震えていた。そして今まで俺を見つめ続けた瞳は揺らぎ始めていた。
俺はそんなコイツを瞬きもせず見つめ続ける。
俺達が過ごした日々が泡沫のように消えるのを感じながら。
・・・・
***との出会いは伊吹に仕組まれたある意味偶然だ。断る事も出来たはずのただの偶然…だがその偶然は
この博物館で『花水木』が展示予定である事実に基づき必然に変わってしまう。
かと言って俺がコイツに目を奪われたのも 芸術バカぶりに付き合ったのも
キスをしたのも 初めての男になったのも
その全てが『花水木』に繋がっていたわけじゃない。決してそうじゃない
…だけれど
「…。」
それを伝えたところで…お前は…。
…ピッ
『柳瀬、急げ。警察車両がこっちに向かってる。』
インカムを通じて 拓斗のらしくなくマジな声を耳にする。
だが 俺は返事も 反応もせず***を見つめ続けた。
そして
「…俺はお前と他愛のない話をするのが 楽しくて堪らなかった。」
見つめ合ったままの状態で 微笑み伝えた。コイツの姿を目に焼き付けた。
「熱心に芸術の話をするお前を見て…いちいち感動して涙を落とすお前を見て」
…もう、会えないと分かっていたからな。そうだろ?
「すっげぇ可愛いと思ったよ。」
別れの時になって伝える事ではないから口にはしないけど、俺は
「お前との時間は本当に幸せだった。」
お前を愛してる。…愛してるよ。
・・・・
「…あ…」
***は 俺の笑顔に 胸の前でギュッと握っていた手の力を抜く。だがその手が
「流輝!!」
『柳瀬!!』
「ッ…」
ガチャッ!!
手が…力なくアイツの身体と一緒に崩れたのか
…俺に伸ばされたのか 見ていない。
パタン…
***の髪を揺らす一瞬の風になり 展示室から姿を消したのだから。
・・・・
バタン!!
「すぐに出せ!」
キキーッ!!
「ハァッハァッ…」
「はぁ…はぁ…あっぶね…」
「…ハァ…ッ…」
…ハァ…。
・・・・
息が整ってもまだ ボスは…拓斗も宙も健至も 誰も言葉を発しなかった。
ファンファンファン…
「…。」
何台もの警察車両が俺達の向かう逆方向へと赤いランプを照らす
長く闇に染まり過ぎた。眼球が暗闇に慣れていて…そのせいで
濡れたアスファルトまでも照らす赤光の様が突き刺すような眩しさになり
「ッ…」
すれ違ってもまだ瞳の奥に衝撃として残り
目を閉じても…眩しさがいつまでも痛みに…そのおかげで
「…。」
…***…
見つめ続けたアイツの姿は 俺の瞳から消えて…
・・・・
バサッ
「…。」
翌日の朝刊の一面 それは当然のように『怪盗ブラックフォックス現る』昨夜の俺達の行動を表すものだった。
だがいつもと違ったのは
博物館という芸術溢れる場所からの盗みであったからだろう 今までのように義賊という扱いではなく
「『まさに怪盗』…フン…」
『桜』『鈴蘭』が海外のオークションに懸けられたというデマも影響している。だが俺は
バサッ
どうでも良い…
俺達の目的はなんら変わっていないというのに 都合良い扱いをされる事を気にはしていなかった。
むしろそれではなく
「…。」
読み進めるある一文に目は留まり。
…博物館の女性職員が現場に居合わせたが 果敢に対応した…
「…。」
この記事を書いたのは 新聞記者をしていると言っていた***の友人だろう
…責任を取り辞職…
バサ…
アイツに関する労いの記事は他新聞には無かった。
・・・・
それから何日か後 伊吹が泣きながら電話をしてくる。
『***さん、博物館辞めちゃったの?』
***は伊吹に手紙を送ったらしい。絵画教室を中途半端に終わらせる事への詫びと 伊吹の絵の才能への喝さいと…
「…。」
俺は何も…何も答えられず。
・・・・
「ま。ゆっくり調べれば良いさ。『椿姫肖像画』の在処と曾孫の所在はさ。」
やっと三つの絵画が揃ったというのに皆行動を移そうとしなかった。
「…なぁ~んかもうどうでも良いかなぁって。」
宙の言葉がコイツらの心の声なんだろう。俺と***の様子を間近で見ていた健至もインカムを通して様子を知っている拓斗もボスも
「…あ~あ。」
俺に気を使ってか…それからこのミッションに関して何かを口にする事は無かった。
「…。」
…そして、俺は。
・・・・
カツッ…
「…。」
仕事帰りの夜更け 心地良い初夏の夜風に髪を揺らしながら閉館後の博物館の前で足を止める。
「…何してる?今…どこで…」
***は念願だった博物館勤務も辞めた アパートも引っ越した…アイツを追い遣った俺は捜す事も許されず かと言って記憶から消すことも出来ないのだから
博物館を面影に…女々しく***への疑問を一人呟くだけで。
「…なぁ…***。」
いつまでも立ち尽くす…そんな日々を繰り返すだけで。
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