Liar:48 (吉祥寺デイズ:Long:佐東一護) | ANOTHER DAYS

ANOTHER DAYS

「orangeeeendays/みかんの日々」復刻版

ボルテージ乙ゲーキャラの二次妄想小説中心です
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日々の出来事など。

before

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「嫌だ!!」


一護の…まるで泣き叫んでいるような声が聞こえオレ達は一斉に立ち上がる。


あれからずっと黙り込んだままだったオレ達。


何一つ…この二人の為にしてやれなかった…オレ達。


・・・・


バタバタと降りてくる音に振り返ると こちらに視線を向けることなく


スーツケースを片手にドアに向かう***の姿


「***!」


追って来た一護が***の手を後ろから掴んだけれど振り向きざま強く振り払われる。


そして振り返った***は


「別れようよ。」


随分と強い口調で一護に告げた。


・・・・


***は泣いてはいなかった。


けれどきっとすごく泣いたんだろう。目は真っ赤で潤んだ瞳から今にも涙を落としそう


けれどグッと堪え一護を見つめた。


彼女に向かい合う一護の背中しかオレ達は見ることができなかったけれど 力無く肩を落とし 丸くなった一護の背を見て


「別れたいんでしょ。」


こいつの言いたいこと 伝えたいことはきっと何一つ伝わらなかったんだと分かって。


「…***ちゃん」


…そんな二人を見て声を掛けることができるのは理人だけだ。


「…いっちゃんの話、聞いてあげてよ?」


無理して笑顔を見せる理人こそ…目を真っ赤にしているのにな。


「ちゃんと話し合ったらきっと…きっとね…」


けれど***は今まで聞いた事のない声の強さで


「妊娠してるんでしょ?」


「…***ちゃん…」


「私と別れるって言ってたじゃん。遠くにいるからちょうどいいって言ってたじゃん。」


たとえその声は震えていようと 強い眼差しでそう言い切る***に


「別れるのは楽だって言ってたじゃん!」


オレ達は何も言い返せなくて…。


たぶん ***は一護の浮気を怒っているのではない。


きっと多少なりとも覚悟はしていたんだと思う。けれど相手を知っていた。


正月に会った時にもしかして何かを感じていた?


一護の手をギュッと握り 随分と寄り添い…人前でそんなにベタベタするなんて無かったから


久しぶりの再会に 嬉しくて堪らないんだろうと思っていた。


だけどそれはもしかして ***、お前は沙希に何かを感じたのかな。


「…。」


…何か二人の繋がりを感じたのかな。


「いっちゃん、プライド高いもんね。振られるのが嫌?だったら早く言ってよ。」


…もう何を言ってもダメなんだ。


「早く別れようって言ってよ!」


…何を言ってもダメだったんだね 一護。


「ハァ…」


剛史が大げさなくらいドカッとソファに座り込んだ。


・・・・


どれくらい誰も何も言えないでいただろう。


たぶんそんなには長い時間じゃない。けれどとてつもなく長く感じた。


この辛くて悲しいだけの時間を終わらせたのは


「…あと…半分だったのにな。」


静かな…やけに優しい声の一護で。


「…あと一年半で…また一緒にいられたのに。」


三年…という 区切り。


帰ってくるわけはないと豪語していたけれど 一護はその区切りを心の底から待っていた。


遠距離を何度も何度も終わらせて始める。そうしたらいつか終わる…そう言っていたよな。


きっと***は戻ってくる。もし戻ってこなければ なぁ一護


「***。」


…どうしようとしていた?


一護がゆっくりと顔を上げた。


「俺はお前が好きだよ。」・・・


「今までもこれからもずっとずっと…」・・・


「お前だけが好きだ。」


震える声で伝える一護は…迎えに行こうとしていたのかな。


・・・・


気づいたらオレの頬に冷たいモノが流れる。


たぶん鼻を啜った理人も 顔を伏せたままの剛史も 天井を仰いだリュウ兄も


「…ごめんね、***。」・・・


「…別れてください。」


泣きながら頭を下げる一護を もう見ていられなかった。


・・・・


たぶん、***はギリギリでも一護を信じたい気持ちがあったんだと思う。


思わず一護に手を伸ばし触れようとしていた。


けれどその言葉を聞いて…グッと…目を堅く閉じた。


そしてゆっくりと向けられた視線は一護にではなく…オレ達にで。


「***ちゃ…」


その時の彼女の表情が忘れられない。


こんな時なのに とてつもなく綺麗だと思った。あいつをこんなふうに感じることは初めてで…


たぶんそれは もう二度と会えないと確信したからかもしれない。


「…バイバイ。」


力なくオレ達に そして一護にそう言って静かにドアを開ける彼女とは


カラン…


…もう会えないんだって。


・・・・


「…なんだよ、これ。」


剛史が呟く。


彼女はもういないのに…頭を下げたままの一護にか


それともこのすがすがしいまでにも感じる窓から零れ入ってくる朝日にか…


「…ッ!!」


リュウ兄が突っ立ったままのオレの前をすごい勢いで通り過ぎドアに向かって走る。


「おい一護!追いかけるぞ!」


…怒っているようにも見えるリュウ兄は一護にそう言ったけれど


「…もういいよ。」


「は?!良いわけないだろ、何がいいんだよ、お前ホントにこれで…」


「もう…いいよ。」


・・・・


…ゆっくりと膝から崩れ落ちる一護に…オレ達は目を見開いた。


・・・・


一護はバタン…と床に膝を付け座り込む。そして


「…いっちゃん…」


隣にいる理人の声が聞こえないくらいの声をあげ 床にひれ伏し泣いた。


「…一護…」


まるでガキみたいに泣いた。


何度も何度もあいつの名前を呼んで 何度も何度も嫌だ嫌だと叫んで…泣いたんだ。


「…一護…っ」


こんな一護をオレ達は見たことなくて。


…こんな一護を見るなんて思ってもいなくて。


「…おい、早く!」


リュウ兄が涙を乱暴に拭いながらオレ達を大声で呼ぶ。


「早く!追いかけなきゃ!!」


リュウ兄は一護を一人にしてやりたかったんだと思う。


その声にハッとしてオレ達はドアに向かって…


カラン!!バン!!


一護を一人、残して。


・・・・


「ハァっハァッ…!!」


駅を何周もして何度も同じ場所を見渡しながら***を捜したけれど


「居ねぇ…っ」


見つからなかった。何度も何度も電話したのに***は携帯に出なかった。


「…ハァ…ッ」


伝えたかった。どうしても。


一護の言葉に嘘は何一つないよ。本当にお前のことが好きだったんだ 今も…これからもずっとお前のことが好きなんだよって。


別れてしまった二人に 別れなきゃいけなかった二人には余計なことなのかな。


でもどうしても伝えたかったのに…伝えてやりたかったのに。


いつしか携帯の電源は切られる。オレ達は途方に暮れて…


「ハァ…ハァ…」


クロフネをでてからどれくらい経っただろう。


涙はいつしかギラギラと輝く太陽によって汗へと変わる。


駅と商店街を何周も走り廻ったオレ達。足を止めたのは何度も通り過ぎたタコ公園の前だった。


「…最初からさ」


息を切らしながら剛史がポツリと呟いた。


「俺、あの女、嫌いだったんだよ。」


・・・・


その夜から一護は沙希と付き合い始めた。


一護と***の遠距離は終わった。



★END★ → epi

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