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「理人がしつけぇの。…そそ、花火大会一緒に行こうって。」
23時。俺はいつものようにベッドの上 ゴロゴロしながら***と電話で話をしている。
「…ダメだろ。今回正味二日みたいなもんだろ?なんでその貴重な一日をあいつに捧げなきゃいけねぇんだよ。」
クスクス笑う***に唇尖らせる俺は 二週間後の花火大会を心待ちにしていた。
たったの二日…夜にこっちに戻って翌日にはあっちに帰るからすげぇ短いからこそ
「俺、二人が良いんだけど。…分かったよ、じゃ…ちょっとだけ。」
一目なら許す、だなんて俺も意地悪なのな あいつらの幼なじみを一人占めする。
でも良いだろ?だって***は俺のなんだから。
会いたいって気持ちだけで日々を過ごしているんだから。
「なぁ***。」
仰向けに寝転がり ぼんやりとしか浮かばない***の顔を天井に映す。
「…早く会いたい。」
前は会いたいって言葉自体禁句だった。
だってそれは叶わない願い お互いを傷つけるある意味刃。
だけれど冬に会えてから 俺らはその言葉を結構頻繁に声にするようになる。
「…お前も俺に会いたい?…うん。」
だって願えば叶うだなんて 流星群に誓う夜ではないけれど
現実となって抱きしめられるぬくもりを感じてしまったら 心ではなく声に出したいって
そうしたらきっとまた会えるんじゃないかって…
少しずつだけど***のじいちゃんの体調は良くなり こいつ自身自分の時間が取れるようになったという。
ほらな、全部俺らの願いどおりに進む。だからもっと声に出して もう我慢はしないで
「…会いたい。」
…距離をグンと近づけたい。
・・・・
『今日偶然沙希ちゃんを見掛けたよ。』
理人がわざわざメールを送って来た午後
『声は掛けなかったんだ。なんとなくね。』
だからなんだって イチイチ俺に話す必要ねぇだろって
「…。」
返信する事もしないまま 冷めた目で携帯を収める俺は…
「…ハァ。」
なんか…あいつを想うとブルー。
・・・・
沙希から連絡があったのは 事もあろうにクロフネに幼なじみが全員集合している時だった。
これっきりって言ったのに 親しげに友達のように…
久しぶりに再会した沙希がやけに綺麗に見えたのは事実で。
なんだろな 化粧?それとも髪型?でも相変わらずすぐに頬を赤く染めて…
沙希に気持ちを伝えられたあの冬の日はもうとっくに思い出になっていた。
だから約半年ぶりの再会は懐かしく 新鮮だった。
けれどいくら新鮮だろうと重ねた事のある唇は俺とあいつをぐんと引き寄せる。
『私も浮気しようかな。』
お前も…そうだったんだろ?
・・・・
『ごめん。ちょっと黙ってて。』
『これっきりって事で。』
『なんでかけてくんの?俺もうそんな気ねぇし。』
ただの女だと見てしまっていたにしても 沙希に対する俺の言葉 行動は随分とヒドい。
けれど中途半端な優しさや労りは俺らの首をグッと締めるだけだから
『…そうですよね。一度きりの…関係だったんですもんね。』
なんでそんな寂しそうな声で言うの だって俺らそうだからあの夜を過ごしたんだろ?
『そそ。彼氏と仲良くね。バイバイ。』
ズルズルと続くぐらいなら縁を切ったほうが良いに決まっている。
腹いせだってお前言ったじゃん。でなきゃ俺、抱いてないよ。
遊びだ遊びだと割り切っても***に後ろめたさが全くないわけじゃない。
ホテルで掛かってきた電話 前日にでも夏に帰ってくる事を聞いていたら 俺は沙希を抱かなかった。
・・・・
8月の晴れ渡る空の下
アスファルトに照り返される太陽の眩しさに目が眩んだ午後。
俺はクロフネで相変わらず幼なじみ達とくだらない話をする。
「あと少しだね!***ちゃん帰ってくるの!」
「理人、お前には関係ないから気にするな。」
「花火楽しみだなぁ。」
「…。だから俺ら二人で行くって何度言いましたっけ?」
***が帰ってくるその日が近づくにつれなんとなくそわそわとしてしまうのは
相変わらずあいつに心を掴まれているせいだと思う。
「まぁまぁ一護、たまには良いだろ!」
バシッと俺の背を叩く満面の笑みのリュウ兄に
「たまにはって…。毎日会ってるんなら別だよ。だけど年に1回会えるかどうかだぜ?そんな日くらい独占させろよ。」
会いたい気持ちは変わらない。
会いたくて会いたくて心震える日々に終わりはない。
「まぁまぁ。」
「まぁまぁじゃねぇっつの。」
もうすぐ***に会える。
ぼんやりとしてきたあいつの笑顔を今度こそしっかりと目に焼き付けて
また次に会える時までずっと思い描いていたい。
会いたい会いたい会いたい…何度だって伝えたから 願い叶うその日が楽しみで
~♪
…楽しみで…仕方なかったのに。
「呼び出されることの多い奴だよね。」
俺の携帯に 剛史が嫌味っぽく言い ハルがプッと笑う。
表示を確認すると登録していない番号だった。
誰??
「はいもしもし こちら佐東。誰。」
・・・・
一度は登録していた番号。削除していなかったら…
『…沙希です。』
「…は?」
俺は電話にでることはなかったのに。
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