Liar:38 (吉祥寺デイズ:Long:佐東一護) | ANOTHER DAYS

ANOTHER DAYS

「orangeeeendays/みかんの日々」復刻版

ボルテージ乙ゲーキャラの二次妄想小説中心です
吉恋一護 誓い大和 怪盗流輝 スイルム英介 お気に入り
日々の出来事など。

before

**************************


バイト先をあのカフェにして良かったと思った。


そしてその夜 電話をかけて良かったと思った。


『…沙希…』


一護さんの私に向けられる視線が以前と変わったと感じたのは気のせいではない。


『じゃ、明日。』


「はい!」


久しぶりの再会 そして電話…無視どころか二度着信を鳴らしたところで出てくれたよね。


びっくりしちゃう程会話が盛り上がる。


明日ご飯一緒になんて誘うことに全く躊躇する必要もなかった。


「ドキドキする…」


私はすぐさまクローゼットを開け明日着ていく洋服をあれでもないこれでもないと部屋中にばら撒く。


『うそ。』


「ホント!明日一護さんとデートぉ!!」


香にも即効電話して…。


あんなに避けられていたのに すごく久しぶりなのに


どうして会ってくれるんだろう なんて事考えようとも思わなかった。


だってそれは私と同じ。…たぶん、同じだから。


・・・・


一護さんへの気持ちを抑え込み切れていなかった私は 彼との再会に心躍らせた。


遠距離の彼に心痛める事は無かった。


だって気付いていたの 久しぶりに会った先週の日曜日 彼の首筋に薄い色のキスマークがあった事


でも私は責めなかった。だって男の人ってそうなんだろうし


「一護さん!」


…女の私だってそうなんだし。


「おう。」


駅で待ち合わせをし いつか一護さんと一緒に行った中華料理のお店ののれんを潜る。


「前の時も思ったんだけどさ。」


「はい?」


「沙希って気が利くよな。」


前のように料理を取り分けて…やっぱりこのお店にして大正解だったんだね。


・・・・


一護さんは随分とおしゃべりだった。


電話で話をしたことをまた話して二人で笑って…


賑やかな店内では隣にいるのに少し大きな声で話さないと声が聞こえない。


だから肩を寄せ合い口を耳に近づけて喋る。


「可笑しい…。」


一護さんの横でこうして座っていられることにすごく幸せを感じていた。


常に触れ合っている肩先には彼のぬくもり 私のウーロン茶に手を伸ばし遠慮なく飲んだりもする。


なんだかこうしていたら恋人同士みたい だなんて 一度終わった恋にまた心が染まる。


でも分かっていた。一度終わった恋だから一護さんは会ってくれたんだって。


「そういや、彼氏とうまくいってんの。」


「ああ、うん。」


「そか。」


…私に進行中の恋があるから会ってくれたんだって。


「…浮気はされたけどね。」


「え?」


「この間会った時キスマーク付けてた。すぐ見えるところに付けさせてバカだよね。」


私が笑っていたとしても一護さんは眉間にしわを寄せた。


「でも責めないの。だってしょうがないかなって。でも…分からないようにして欲しいよね、そういうの。」


「…理解あるっつーか 冷めてるっていうか。」


そう言って私をどこか慰めるように笑う。だから私は


「腹は立つよ。…どうしようかな。私も浮気しちゃおうかな。」


一護さんは私のその言葉にプッと笑った。そして顔を覗き込みながら


「腹いせですか。」


「そうです。目には目を、です。」


「じゃそうしたら?それで沙希が楽になるんなら、だけど。」


・・・・


…たぶんその瞬間、私と彼は同じシーンを思い出したんだと思う。


『遊びなら大歓迎。』


…あのクリスマスの夜 重なったかどうか分からない唇に胸は高鳴りどうしようもない程震えていた。


あれからもう半年 思い出となったあの夜が二人の過去として動き始める夜…


「…そろそろ帰ろうぜ。もう閉店だろ。」


ハッとしたように目を逸らし伝票を持って立ち上がる一護さんの背を見ながら


「…プッ…」


あ、逃げたって笑ってしまった。でも…


「じゃね。彼氏と仲直りしろよ。」


「…はい。」


でも…。


・・・・


「一護さん。」


「ん。」


お店を出て駅に向かう彼の背に声を掛け振り向かせる。


私は最初からそのつもりだった。


「…付き合ってもらえませんか。」


「え?どこ?」


「腹いせ。」


「は?」


上着をギュッと握った私に もう分かったよね。


「…ホテル。」


…分かっていたよね。



next

************************