・過去記事
舞台は本能寺 命がけの恋、とか。
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「…謀反…?」
私は言葉を失った。
「光秀様が…謀反…。」
崩れ落ちた膝 真っ暗な瞼の裏に いつか見た光秀様の横顔が思い浮かぶ。
『…これからも戦いは激しくなるばかり…。』
そうため息交じりに呟いたあの人はあの頃から御屋形様の手法に疑問を持っていたのか
「…信長様は?」
力無くそう問う私の顔はきっと真っ青だろう。
だって今夜は本能寺に一泊し明日にはこの城へ戻ると
「…。」
さっき文で受け取ったばかりなのに…。
私と同じように血の気のない顔をした家来達は揃いに揃って首を横に振る。
真っ赤な炎は本能寺を包み ネズミ一匹たりとも入り出る事は出来ない程の惨状
その炎から逃れる術は無く 信長様は火の子と舞い消えるだけ…
「…一人にしてください。」
落ちる涙を拭うこともせず ただ呟き部屋の戸を閉めた。
・・・・
「…。」
しと寝に力無く横たわると次から次へと涙が枕を濡らす。
この一粒一粒が信長様を包む炎を消す術にならないかと
「信長様…。」
明日の夜にはこのしと寝に二人で横たわりぬくもりを感じる事が出来たのにと
「信長さま…。」
何度も愛おしい人の名を呼び無力な自分自身を情けなく思う。
「…信長さま…。」
泣き腫らした目に映った枕元に置いていた金平糖
『これは何にでも効く良薬だ。』
初めて過ごす夜にそう言って一粒食べさせてくれた。
『これで緊張も解けるだろう?』
そう言って 甘くて優しい口づけをくれた。
「信長様…。」
・・・・
運命の悪戯は誰かを愛するという苦くも甘い時間をくれた。
一生お仕えしますと誓ったあの日から いつかこんな日が来るのではないかと覚悟をしていた。
「…一粒だけ食べさせてください。」
金平糖を一粒口に入れたらふんわりと優しく甘い香りが口中に拡がる。
「これで大丈夫ですね…。」
貴方を愛したあの日から覚悟をしていた。
だから大丈夫です、御屋形様。
・・・・
刀を握ることは初めてじゃない。けれど自分に刃を向ける事は初めてだった。
「…。」
しと寝の上に正座をするなんて夜を始めて過ごすあの日以来
傍にあるロウは私が息をする度に小さく揺れる。
その炎をじっと見ていたら
「信長さま…?」
フッ…と大きく揺れる瞬間がある。
「…辛抱強い方ですね。」
信長様を想い 思わず微笑んだ。
「…私を想ってくれているのですか。」
もう一度揺れた瞬間 このロウが消えた瞬間
その時がきっと御屋形様の最期の時だと教えてくれているのだと
静かに揺れる炎をじっと見ながら刀を両手で握り直し 腹部へと当てる。
「…ひとつだけ 私の願いを聞いてください。」
炎はかすかな煙をまっすぐに上げながらゆらりゆらりと揺れる。
だから私は息を堪えた。
「どうか…」
涙は止めどない。貴方を想う気持ちも
「…どうか。」
止めどない。
・・・・
鈍い音を立ててしと寝に倒れた私をひときわ大きく揺れた炎が見下す。
「…信長…さ…ま…。」
痛みは感じなかった。やっぱり金平糖は何にでも効くんですね。
「…どうか…」
霧のかかったような視界に 炎が大きく揺れ何度となく消えかかってはまた灯す。
その炎をぼんやりと見ながら祈った。
「…どうか…貴方と同じ瞬間に…」
死ねますように。
・・・・
炎がフッ…と消える。まるで私の気持ちが届いたみたい。
願いを聞いてくれたのですね。
だから私は静かに微笑む。
「…愛して…ます。」
そして貴方を想って瞼を閉じた。
★END★
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「…謀反…?」
私は言葉を失った。
「光秀様が…謀反…。」
崩れ落ちた膝 真っ暗な瞼の裏に いつか見た光秀様の横顔が思い浮かぶ。
『…これからも戦いは激しくなるばかり…。』
そうため息交じりに呟いたあの人はあの頃から御屋形様の手法に疑問を持っていたのか
「…信長様は?」
力無くそう問う私の顔はきっと真っ青だろう。
だって今夜は本能寺に一泊し明日にはこの城へ戻ると
「…。」
さっき文で受け取ったばかりなのに…。
私と同じように血の気のない顔をした家来達は揃いに揃って首を横に振る。
真っ赤な炎は本能寺を包み ネズミ一匹たりとも入り出る事は出来ない程の惨状
その炎から逃れる術は無く 信長様は火の子と舞い消えるだけ…
「…一人にしてください。」
落ちる涙を拭うこともせず ただ呟き部屋の戸を閉めた。
・・・・
「…。」
しと寝に力無く横たわると次から次へと涙が枕を濡らす。
この一粒一粒が信長様を包む炎を消す術にならないかと
「信長様…。」
明日の夜にはこのしと寝に二人で横たわりぬくもりを感じる事が出来たのにと
「信長さま…。」
何度も愛おしい人の名を呼び無力な自分自身を情けなく思う。
「…信長さま…。」
泣き腫らした目に映った枕元に置いていた金平糖
『これは何にでも効く良薬だ。』
初めて過ごす夜にそう言って一粒食べさせてくれた。
『これで緊張も解けるだろう?』
そう言って 甘くて優しい口づけをくれた。
「信長様…。」
・・・・
運命の悪戯は誰かを愛するという苦くも甘い時間をくれた。
一生お仕えしますと誓ったあの日から いつかこんな日が来るのではないかと覚悟をしていた。
「…一粒だけ食べさせてください。」
金平糖を一粒口に入れたらふんわりと優しく甘い香りが口中に拡がる。
「これで大丈夫ですね…。」
貴方を愛したあの日から覚悟をしていた。
だから大丈夫です、御屋形様。
・・・・
刀を握ることは初めてじゃない。けれど自分に刃を向ける事は初めてだった。
「…。」
しと寝の上に正座をするなんて夜を始めて過ごすあの日以来
傍にあるロウは私が息をする度に小さく揺れる。
その炎をじっと見ていたら
「信長さま…?」
フッ…と大きく揺れる瞬間がある。
「…辛抱強い方ですね。」
信長様を想い 思わず微笑んだ。
「…私を想ってくれているのですか。」
もう一度揺れた瞬間 このロウが消えた瞬間
その時がきっと御屋形様の最期の時だと教えてくれているのだと
静かに揺れる炎をじっと見ながら刀を両手で握り直し 腹部へと当てる。
「…ひとつだけ 私の願いを聞いてください。」
炎はかすかな煙をまっすぐに上げながらゆらりゆらりと揺れる。
だから私は息を堪えた。
「どうか…」
涙は止めどない。貴方を想う気持ちも
「…どうか。」
止めどない。
・・・・
鈍い音を立ててしと寝に倒れた私をひときわ大きく揺れた炎が見下す。
「…信長…さ…ま…。」
痛みは感じなかった。やっぱり金平糖は何にでも効くんですね。
「…どうか…」
霧のかかったような視界に 炎が大きく揺れ何度となく消えかかってはまた灯す。
その炎をぼんやりと見ながら祈った。
「…どうか…貴方と同じ瞬間に…」
死ねますように。
・・・・
炎がフッ…と消える。まるで私の気持ちが届いたみたい。
願いを聞いてくれたのですね。
だから私は静かに微笑む。
「…愛して…ます。」
そして貴方を想って瞼を閉じた。
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