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・過去記事
リクエスト。初書き昴ん。
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「いつもすいません。」
「仕事だから。いちいち毎回謝るな。」
今日も頭を下げながら遠慮がちに助手席に座る彼女を乗せ 車を発進させる。
「小杉の奴にまた厳しくやられてたな。」
「厳しくはないですよ。少し口が悪いだけ。」
舞台の日が近くなると空が暗くなってもまだ帰れない日々が続いていた。
一日中彼女の警護。彼女のスケジュールにあわせて俺の毎日は決まる。
「昴さんの運転好きです。スピード出てるのに静かで優しい運転。」
微笑みながら椅子に深く座り直しホッとしたような息を吐いた。
「眠くなっちゃう。」
「いつも寝てるだろ。」
「気づいてました?」
「ああ。ヨダレのあとが証拠。」
なんて笑う俺に嘘ばっかりと頬を膨らませる。
「着いたら起こすから。寝て良いぞ?」
申し訳なさそうに頷き目を閉じる彼女を一人暮らしの自宅まで送る…
「相変わらず寝るの早ぇ…。」
離れることは出来ない。何故ならそれが俺に与えられた任務。
信号で停まってチラッと目を向けると僅かな寝息をたて幼さの残る寝顔にフッと笑みが溢れる。
「…遠回り…しようか。」
すでに夢の中の彼女から返事はない。
それが分かっているからいつも寝顔の彼女にそう言う。
青信号になるギリギリ前で車をUターンさせ 海岸へと向かったのは任務違反になるのか。
「…なるん…だろうな。」
一人呟きアクセルを踏み込んだ。
・・・・
「フゥ…。」
彼女を車に残し 煙草を吸う為灯台の灯りだけが時折照らす海岸へと一人降り立った。
潮の香りがじめっぽく肌にまとわりつく。
波の音と遠くに聞こえる漁船の無線の音だけが真っ暗な海に響き渡る中
窓越し助手席に視線を向けたら変わらずの眠り姫 心地よさそうに眠り続けている。
「爆睡だな。」
そしてその寝顔を見ながら今夜も思う。
こうして彼女の寝顔を見つめるのは何度目だろうと。
そしてその寝顔に触れたいと思い始めたのはいつからだったのか、とか。
・・・・
女なんて掃いて捨てるほど知っていた。
本能だけで求め求められ 都合良く使い使われ…
女なんて自分の利用価値で基準が決まる。後腐れのない関係 それが全て。
…だったのに。
バタン…
できる限り音をたてないように車に乗り込んだ。
気持ち良さそうに眠る彼女を思いやって…
いや、眠っていてくれたほうが好都合だと思ってかもしれないな。
・・・・
波の音も耳からではなく目から感じる程の静寂の中
「…俺さ。」
小さな寝息をたてるだけの彼女にそっと話かける。
「婚約…破棄したよ。」
返事なんて有りはしない。というかいらない。
「…馬鹿だろ。エリートコース自分から外れてやんの。」
目を開けて欲しいとも思わなかった。
何故なら彼女の口からどんな言葉が返されるのか…知る事さえも怖かったから。
「なんでだと思う?」
…そっと髪に触れ手を止める。
「…誰のせいだと思う?」
目を覚ます気配のない事を確認してから髪を撫で始める俺はどれだけのビビりなんだって…
閉じられた瞼に微笑みかけるだけで…いつからこんなに弱々しい男になったんだって。
「…なぁ。…。」
・・・・
女を始めて愛おしいと思った。そんな彼女は俺の性格さえも変えてしまったのか。
仕事だろうとなんだろうと 傍に居て見つめることができるならそれで良い。
喜びが溢れんばかりの笑顔や 苦しみをグッと耐えている唇 悲しみを堪えきれない瞳も
…ただ見つめるだけでそれで良いなんて。
・・・・
指先だけで触れる髪。
それでも彼女の優しさやぬくもりが伝わる気がしてただじっと撫で続ける。
「…なぁ…***。」
彼女への気持ちは震える指先が物語っている。
「俺…お前のこと…。」
届いてやしないのに震える声が物語っている…
・・・・
ピクリとも動かない瞼に 傍や今にも涙を落としそうな瞼。
眠っていたとしてもそれ以上は口に出来ない。本当にお前は俺を変えたんだね。
「情けね…。」
こんなに弱々しく…変えたんだね。
自分が滑稽で仕方なくて俯き思わず笑った。
「帰ろうか。」
・・・・
街へと向かう高速は光の波となって俺たちを包み込む。
「…。」
染まりながらいっそこのままこの光に飲み込まれてしまいたい衝動に駆られる。
彼女と一緒ならそれで良い?…それが良いって。
「…もう少し…眠ってろ。」
眠り姫は目覚めない。
たとえ目覚めたとしてもその唇から愛が語られることがないのならば
「…このままどこか二人で行こう…?」
・・・・
いっそ目覚めなければ良いと 俺は光の中へアクセルを踏み込んだ。
★END★ or next
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