一九二〇年九月、ベルリンでは総選挙があって、ヒトラ
ーという男の率いるナチス党(国家社会主義ドイツ労働者
党)が大進出して、社民党についで第二党に躍り出た。そ
れまで最下位だったナチス党が得票率一八・三パーセント、
議席一〇七と躍進したため、 一躍世界的な注目を浴びた。
しかし、その党首ヒトラーについて、エリザベートは何も
知らなかった。「ヒトラーって、どういう人でしょうか」
ペツネックに聞いても、はっきりしたことは分らない。
「非常に過激な主張の政治家で、生活に不安を持つ中間層
の支持を集めたのだと思う。若いころは、ウィーンにいた
というね」
当時ウィーンでは、素性の知れない無名の男ヒトラーよ
りもむしろ、イタリアのファシスト、ムッソリーニの方に
気を奪われていた。ムッソリーニは、オーストリアやハン
ガリーに勢力を伸ばそうとしており、オーストリアの右翼
武装団体の護国団を支援し、オーストリアの社民党弾圧に
手を貸しているイタリアの実力者である。
