苦労の記憶だった。
99%に断られながら、それでも話を聞いてくれた、あの専務。
その出会いから、私の中で何かが変わり始めました。
同じような出会いが、その後も続いたのです。
不思議なもので、名もない飛び込みの男の話を、
真剣に聞いてくださる方には共通点がありました。
それは、地位でも肩書でもありませんでした。
これはずっと後‥10年ほど先の話になりますが、
流通業界のとあるトップ企業。そこの創業家の方でした。
名刺交換のとき、私よりも深く、頭を下げてこられました。
正直、驚きました。
そんな大きな会社のトップの方が、
なぜここまで腰が低いのか。
その時は、まだ分かりませんでした。
でも今なら、分かります。
大きな仕事をしているから、
腰が低いのではありません。
苦労を重ねてきたから、腰が低いのです。
大きな仕事は、その結果に過ぎません。
創業からずっと、苦労を重ねてきたから。
地獄のような時期を、くぐり抜けてきたから。
だから、人の痛みが分かる。
だから、腰が低い。
◆
腰の低さで名前が挙がる方といえば、
松下幸之助さんです。
一代であれだけの会社を築きながら、
誰に対しても丁寧で、謙虚だったと言われています。
なぜでしょうか。
私は、こう思っています。
裸一貫からのスタートで、
苦労を知っていたからです。
今の大企業のトップの中に、
あそこまで腰の低い方がどれだけいるでしょうか。
創業者は、苦労した記憶が体に染みついています。
だから、人に対して謙虚になれます。
でも、代を重ねるうちに。
その記憶は、薄れていくのかもしれません。
◆
私は、あの専務や、その創業家の方との出会いを通して、
あることに気づきました。
苦労した人ほど、人に優しくなれる。そして謙虚にも、、、
これは、キレイごとではありません。
痛みを知っているから、
目の前の人の痛みにも、敏感になれるのです。
肩書や、会社の大きさでは測れないものが、
そこにはありました。
私が見てきたのは、地位ではなく、行動でした。
話を聞いてくれるかどうか。
頭を下げてくれるかどうか。
その人が、本当はどんな人間なのか。
そういうものは、
名刺の肩書には書いていません。
◆
この気づきは、私自身の営業スタイルを、
少しずつ変えていきました。
それまでの私は、正直、
結果ばかりを追っていました。
契約が取れるか、取れないか。
それだけを見ていました。
でも、あの出会いのあとは、違いました。
たとえ断られても、
目の前にいる方が、どんな方なのかを見るようになったのです。
忙しい中でも、ふと目を合わせてくれる方。
「今日は難しいけど、また来てください」と、
一言添えてくれる方。
そういう方には、私も自然と、
より深く頭を下げるようになりました。
結果を追うのではなく、まず、目の前の人を大切にする。
回り道のようで、実はこれが、
一番の近道だったのかもしれません。
それでも1%の方々との出会いが、私を支えてくれました。
そして今も、その1%との出会いを、
私は忘れていません。
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