この本の著者であるナシーム・ニコラス・タレブは数理系のトレーダーであり、学生時代には哲学も学んでいる。彼は「運が良かっただけ」で成功しているトレーダーを内心馬鹿にし、そういうトレーダーがずっと業界で生き残ることは難しいと述べる。

極論すれば、世の中で起こることは全て偶然起きているにすぎない。投資が成功するのも失敗するのも、ルーレットを回しているのと変わらない。

確率の世界では、試行が増えれば増えるほど、様々な事象が現れる。例えば、毎日コイントスをして、10回表が出続ければ10億円がもらえるゲームがあるとする。確率は2の10乗(1024)分の1だが、1万人参加すれば10人程度は成功者となる。すると、その10人は「成功のために毎日10分やること」などの本を出して一儲けする。もちろんそこに因果関係などない。

上記の例では明らかなのだが、現実の世界は複雑なのでそう簡単には見破れない。いくら投資で成功した人が「まぐれ」であろうと、あとづけで成功した理由が滔々と語られ、やがてまわりの人から崇められるのである。たちが悪いのは、本人も自分に才能があると信じていることだ。

仮に成功する「パターン」を見つけていたとして、確かにそれが起こる「確率」は高いかもしれない。しかし、「確率」は低いが実際に起きるとダメージが大きい事象(「テールリスク」)が起きると一気に吹き飛んでしまうことがある。リーマン・ショックなどはその最たる例だ。世の中の確率は必ずしも釣鐘型の正規分布ではないのである。(この点は著者の「ブラックスワン」でまとめられている。)

著者のまわりのトレーダーも、大部分はテールリスクによって大きな打撃を受け、二度と業界には戻ってこないという。そう考えると、投資家として長期間に亘って成功するには、成功し続けることではなく、致命的な失敗を避けることに尽きるではないのだろうか。それこそがリスク管理の本質であるように思う。

まぐれ―投資家はなぜ、運を実力と勘違いするのか/ダイヤモンド社

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