著者のハワード・マークスは逆張りをモットーとするオークツリー・キャピタル・マネジメントの創業者である。この本には、彼の投資哲学がまとめられている。いずれも筋が通っていて、何度でも読み返したい内容だ。
主張されている投資の原則は、ベンジャミン・グレアムの考え方と一致している。金融資産の本質的な価値を見極め、価値と価格の差である「安全域」に投資するというものである。この考え方自体はグレアムの「証券分析」にも詳細に書かれていることだが、この本ではその実践について近年の金融市場における経験を交えて描かれていることである。
彼は市場は振り子のようなものであると言っている。市場が「効率的」であれば、価格は本質的な価値のところで止まるはずだが、人の心理の影響でそうはならない。市場が好調な時は、(実際はそんなことはあり得ないのだが)もっと上がるという楽観論が支配的になり、やがてそれがバブルを生む。逆に、2008年の金融危機のような時には、市場は過度に悲観的になり、本質的な価値を大きく下回った価格がついてしまう。後者のような時に勇気を持って投資できる人が大きなリターンを得るというわけだ。
将来を予測することはできないとも言っている。実際エコノミストやアナリストの予想はことごとく外れるし、当たったとしても1回限りでは何の意味もない。将来のことは短期的にはランダムなのだ。したがって、将来を予測するのではなく、今市場が振り子のどの位置にいるかを確認することが思慮深い投資家には求められているのである。
リスクについての言及も興味深い。人はリスク回避的な性質が過去も、そして未来もあるわけだから、リスクを取る者にはそれに見合った報酬が与えられる(リスクプレミアム)。ただし、市場が強気になっていてリターンを上げようとするばかりによりリスクの高い投資を行うとリスクプレミアムが縮小し、やがて投機になってしまう。
リスクを取っていれば、いい時はリターンが高くなるのは当然である。しかし、当然のことながら、悪い時は市場よりもさらに大きな損失を被る。悪い時の損失が大きく、取り返しのつかないことになってしまったら元も子もない。いい時に成果を上げた人は、往々にして「まぐれ」であることが多い。市場が悪い時にこそ、投資家の真価が問われるのである。
***
この本に書かれていたことは、自分が考えている投資手法とほぼ完全に一致する。リターンは価値と価格の差によってもたらされ、価格は投資家の心理によって揺れ動く。つまり、(1)本質的な価値を知り、(2)価格が価値を下回っているかどうかを見極め、(3)価格がなぜそうなっているか投資家の心理を考えることが長期投資の鉄則だと言うことだ。
投資家の心理を読んでリターンを上げることは「逆張り投資」に見える。しかし、買っている人がいれば反対側には売っている人がいるわけだから、周りと同じことをやっていても儲かるわけがない。周りと違うことをしようとすると、結果的に「逆張り投資」になるのである。
この投資手法で求められるのは、周りに流されることなく、自分が正しいと信じることができる「強い心」である。投資で最後に必要なのは心理だからこそ、哲学が必要なのだ。
投資で一番大切な20の教え―賢い投資家になるための隠れた常識/日本経済新聞出版社

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主張されている投資の原則は、ベンジャミン・グレアムの考え方と一致している。金融資産の本質的な価値を見極め、価値と価格の差である「安全域」に投資するというものである。この考え方自体はグレアムの「証券分析」にも詳細に書かれていることだが、この本ではその実践について近年の金融市場における経験を交えて描かれていることである。
彼は市場は振り子のようなものであると言っている。市場が「効率的」であれば、価格は本質的な価値のところで止まるはずだが、人の心理の影響でそうはならない。市場が好調な時は、(実際はそんなことはあり得ないのだが)もっと上がるという楽観論が支配的になり、やがてそれがバブルを生む。逆に、2008年の金融危機のような時には、市場は過度に悲観的になり、本質的な価値を大きく下回った価格がついてしまう。後者のような時に勇気を持って投資できる人が大きなリターンを得るというわけだ。
将来を予測することはできないとも言っている。実際エコノミストやアナリストの予想はことごとく外れるし、当たったとしても1回限りでは何の意味もない。将来のことは短期的にはランダムなのだ。したがって、将来を予測するのではなく、今市場が振り子のどの位置にいるかを確認することが思慮深い投資家には求められているのである。
リスクについての言及も興味深い。人はリスク回避的な性質が過去も、そして未来もあるわけだから、リスクを取る者にはそれに見合った報酬が与えられる(リスクプレミアム)。ただし、市場が強気になっていてリターンを上げようとするばかりによりリスクの高い投資を行うとリスクプレミアムが縮小し、やがて投機になってしまう。
リスクを取っていれば、いい時はリターンが高くなるのは当然である。しかし、当然のことながら、悪い時は市場よりもさらに大きな損失を被る。悪い時の損失が大きく、取り返しのつかないことになってしまったら元も子もない。いい時に成果を上げた人は、往々にして「まぐれ」であることが多い。市場が悪い時にこそ、投資家の真価が問われるのである。
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この本に書かれていたことは、自分が考えている投資手法とほぼ完全に一致する。リターンは価値と価格の差によってもたらされ、価格は投資家の心理によって揺れ動く。つまり、(1)本質的な価値を知り、(2)価格が価値を下回っているかどうかを見極め、(3)価格がなぜそうなっているか投資家の心理を考えることが長期投資の鉄則だと言うことだ。
投資家の心理を読んでリターンを上げることは「逆張り投資」に見える。しかし、買っている人がいれば反対側には売っている人がいるわけだから、周りと同じことをやっていても儲かるわけがない。周りと違うことをしようとすると、結果的に「逆張り投資」になるのである。
この投資手法で求められるのは、周りに流されることなく、自分が正しいと信じることができる「強い心」である。投資で最後に必要なのは心理だからこそ、哲学が必要なのだ。
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