「投資銀行とはどういう仕事か?」という質問に対しては、なかなかうまく説明することができない。おそらく多くの同業者が同じことを感じているはずだ。私は面倒な時は「株を売ってるんだ。」とごまかしているが、ここで改めて考えてみることにする。

わかりやすくするために製造業に例えてみることにする。

製造業でまず必要になるのは、売るための商品を開発する研究開発部門があるが、そこにあたるのが自分も所属するオリジネーション部署になる。オリジネーションは名前の通り、新しい商品を売るための種まき作業である。資金調達やM&Aなど、企業が経営戦略を実行するために必要な戦略を提案し続けるのだ。オリジネーションのヒット率はおそらく製造業に比べても圧倒的に低く、1%にも満たないだろう。それでも、製造業の付加価値が技術であるように、投資銀行の付加価値は提案にある。これがなければ利益を得続けることは難しいだろう。

研究開発後の製造にあたる部分が、資金調達関連資料を作るドキュメンテーションや他の投資銀行を取りまとめるシンジケーション、デュー・ディリジェンスなどM&Aの実行ということになろう。しかし、ドキュメンテーションやシンジケーションはどこがやってもほとんど差別化はできない。もし、オリジネーションを疎かにしてこの部分だけをやろうとしたら、それは付加価値の低い部品を製造し続ける下請け企業と変わりなく、いずれ買い叩かれてしまうことは明白である。また、最近の大型M&Aの手数料を見ると、M&Aについても同様の傾向が見られる。そういう意味で、オリジネーションはやはり重要なのだ。

最後に、商品を最終的にお客様に届ける小売店などにあたるのが、販売部門である。投資銀行は製造業で言う川上から川下を全て統合していると考えてもらってよい。販売部門で重要になるのが、どれだけお客を抱えていて、どれだけ売る力があるかである。このお客を掴む力は、これまでいい物を売ってきたかどうかが重要である。一連の流れでいい商品ができれば、次も買ってもらえる可能性が高くなり、投資家の裾野が広がる。

以上のようなことを書いてみたが、冒頭の質問に対する答えはやはりこれかも知れない―「株を売ってるんだ。」