大前研一が訳を行なっているダニエル・ピンクの『ハイコンセプト』の読後感を書く。

【要旨】

社会は農業社会→産業社会→情報化社会と変遷してきたが、情報化社会も既に変わろうとしている。その原因は豊かさ、アジア、オートメーションである。

・豊かさ

産業革命後の物質的豊かさの充足により、人々は既にそれ自体からは満足感を得ることが難しくなっている。それよりも重要になっているのは、生きることの意義・ストーリーだ。マズローの欲求段階説の自己実現の欲求により重きが置かれるようになってきている。

・アジア

アジアに関しては特にインドに着目している。インドのIT技術の発達はめざましく、ドラッカーの言う「ナレッジ・ワーカー」でも、プログラミングなどの「型にはまった」作業は既にアメリカからインドへ移っている。全く同じクオリティのものが10分の1の人件費でできるというのだから、誰でもそちらを選ぶことになるだろう。医療についても同様のことが起こっている。

・オートメーション

IT技術の発達により、反復作業や型にはまった作業は既にコンピュータにより代替が可能である。それも、人がやるよりより正確に。医療や会計についても例外ではないし、弁護士についても大部分がコンピュータで代替することが可能になる。

我々が「一定以上の」収入を得ようとしたら、アジアやコンピュータに代替されず、人々に意義やストーリー、すなわちロジックを司る左脳ではなく、感性や全体観、共感を引き起こす右脳を刺激する「ハイコンセプト」「ハイタッチ」な能力を身に付けなければならない。

そので、重要になってくるのが以下の6つの感性である。

①「機能」だけではなく「デザイン」
②「議論」よりは「物語」
③「個別」よりも「全体の調和」
④「論理」ではなく「共感」
⑤「まじめ」だけでなく「遊び心」
⑥「モノ」よりも「生きがい」

【感想】

前半の部分は非常に納得した。型にはめるだけのものなら既に発展途上国やコンピュータがやったほうが安く正確であるということは実感としてある。生産拠点のアジアへの移転は円高もあるがそれ以上に働く力があると感じる。(実質レートではそれほど円高ではない。)少し経路は異なるが、レアジョブもナレッジワーカーのアジアへの移転という意味では大きなうねりだ。証券会社で見れば、リテールに関してはブローカーが不要になり、インターネットで取引ができるようになってしまった。

後半部分は必ずしもMECEであるという気はしないが、右脳を刺激するという意味ではそれぞれの項目が示唆に富んだ内容となっている。

この本が書かれたのは2005年だが、今伸びている企業はこのコンセプトをうまく捉えられているところが多いように思う。その最たるものがアップルである。iPhoneについて言えば、特別な技術を使っていることはないが、「デザイン」や「全体の調和」を重視した製品となっており、それによって達成されるものは「物語」や「生きがい」、あるいは無限のアプリがダウンロードできるという「遊び心」である。生産はほぼ全てアジアに移転しており、アップル自体は殆ど作っていない。

では、具体的に「ハイコンセプト」な仕事とはどのようなものか。弁護士で言えば、六法全書を全て覚えていることはもはや役に立たない。しかし、相談者の話をに共感し、法廷でストーリー立てて弁論できることは重要になるだろう。また、医療関係について言えば、診断技術も必要だが、患者の話をよく聞いて本当の原因を探れる共感力を持ち、身体全体の調和から本質的な治療を考えられ、物語性を患者に伝えられる医師が必要となるのだろう。余談であるが、最近読んだ本「ヒーリング・バックペイン」と南雲吉則先生の本はどちらも身体全体の調和を重視するものであり、部分を重視する左脳型の思考ではなく、全体を見渡す右脳型の思考が必要になるものであろう。また、そういうものの方が感覚的に受け入れられやすいのではないか。

さて、自分がやろうとしている「メルマガによる株式推奨」を考えてみる。これはアジアや機械に取って替わられるか考えると、作り方次第ではそうはならないと思う。内容は企業の成長ストーリを重視し、ロジックだけではない読む人の共感を呼び起こす。逆に、読む人からの質問にも親身に答える。推奨する銘柄は個別の事業だけではなく、内部まで含めた全体の調和を重視した内容とする。そうする事によって投資を遊び心を取り入れ、それを生きがいとして取り入れてくれる人を一人でも増やす。そうすることができれば、きっといい事業ができると確信している。