魔女ポプリ(5) | THOUSAND WINDS

魔女ポプリ(5)

松明の明かりがこうこうと燃え盛ってる。
あたしの前に一人、そして後ろにもう一人。
両方から挟んで、逃げられないようにしてるのね。
しかもあたしには、なぜか腰のあたりに
頑丈そうな縄がしばりつけてあって、
その縄の一方を後ろあるいてるでかぶつがしっかり握ってる。
そうまでしてあたしを逃がさないようにって、
あんたら、本当にあたしの事信用してるの。
きっと信用なんてこれっぽっちもしてないのね。
だったらいくら魔導士のなりしてるって言ったって、
本当はあたしみたいな奴じゃあ、オオカミ男なんかに
太刀打ち出来ないって思ってるじゃないの。
悔しいけどそれ正解だしね。
だんだん暗いうっそうとした森みたいな、
木の多い小道をたんたんと進んでいる。
何かね、気のせいかも知れないけど、
むしろあたし、オオカミ男のいけにえにされるみたいな
そんな気がしてくるんですけど。
何かこいつら、さもオオカミさんの居場所、
分かってるみたいに迷いなく歩いてるみたいだし。
何となく、誰が見たってほったて小屋もとい
ほこらにしか見えないようなのが建っていて、
その中に何かいる?いや何もいないな。
あれ何だろ、中からっぽなのに。
こんなとこ来て、っていやっ、何するのあなたたちっ。
そんなとこつかまないでよぉ。
もう今さら何言ったってこいつら聞いちゃくれないけどね。
「さあこの中に入って。
ここにいてくれれば、それで終わるから。
みんな、本当はあんたの事なんかあてにしちゃいない。
せめて一人でも今夜の村人の犠牲が出なくて済めば、
そうすれば誰か明日にでもふもとの町へ出向いて、
討伐隊をお願いすることだって出来るし。
だから、あなたは今晩ここにいて、
オオカミ男と遭遇してくれたら。
私らの願いとは本当はそれなんだよ」
さあどうしようか。こいつら本気で張り倒して、
力の限り逃げ出そうか。
でもあたしにこんな大男始末できる力ってないし。
かよわい乙女でございますものね。
そして再び、力づくでその狭いほこらの中に押し込まれて、
まるでカゴの中のニワトリみたいね。
言っててしゃれにならなくなってきた。
わあ、どうしよう。こんな状態でもしもオオカミ男が現われでもしたら、
一貫の終わりってことよね。
そのまま無言で大男たちは去っていってしまったわ。
しかもせめてもの頼みのつなの、たいまつまで持っていかれちゃったから、
辺り真っ暗で全然見えませんけど。
せめて最期の時位は何も分からないままって言う
せめてもの心づかいなの?
ザッザッザッ。
ああ嫌な音が聞こえてくる。
あれ絶対オオカミ男の足音だよね。
まるで申し合わせたかのような、絶妙のタイミング。
きっと村の連中、オオカミ男とグルね。
何だか頭が変ななってきちゃった。思考がおかしくなってきてるし。
確かにそいつは、3m近い身の丈で、横幅はクマみたいで、
全身毛むくじゃらみたいに見える。
えっ、どうして暗闇でそれが見えるかって?
まあ一応外は満月だし、真っ暗ってほどじゃないし、
それより大事なことは、
そいつがよく見える程、ずっと近くにいるってこと。
「ギャーッ!」
一応叫んでみたけど、ひるむ相手じゃないわよね。
くそ、こんなことになるんだったら、
お師匠の寝室忍び込んで、
魔導書の一つで持ち逃げしといたら良かった。
ほこらの前の格子状の戸びら、これだけが
今あたしとオオカミ男とをさえぎる唯一の防壁。
こんなもの一撃で壊されるでしょうね。
そしてあたしはこいつの今晩のお食事にされてしまう・・・
「グルル・・・。これは一体何のまねだ」
あれ?こいつ人間の言葉しゃべるじゃない。
もしかしたら、対話で何とか回避出来たららっき。
「普通じゃない・・・何だこいつ。お前は何者だ?」
あたしはポプリ、こう見えても世界一の魔女だからね。
自称だけどねはさすがにここじゃ言えなかったね。
もうどうせ終わりだと思ってたから、
言いたいだけ言っとかないとね。
でないと絶対この世に未練とか残るし。
「・・・なるほど、魔女か。そうか、それでか。
お前の中からはみ出してくるそれは何だ。
人間にしてはあまりに大きすぎるキャパシティ、
しかもそれが俺を排除しようとしている。
やつら一体何たくらんでる?
こんなので俺を始末しようと言うのか?」
こんなので悪かったわね。何よ、男だったら一思いにやりなさいよ。
このごに及んでじらすんじゃないわよっ。
もう自分でも何言ってるんだか分からなくなってきてる。
ただ相手が何かちゅうちょしてるようには見えるんだけど。
「ふふ、俺あてのいけにえのつもりなんだろうが、馬鹿な村人たちだ。
こんなのが食えるか。
残念ながらこれ以上近づけば、俺がどうにかなってしまうわ。
こいつの中からあふれてくる、途方もない魔力の波動が
俺を支配しようと待ち構えてやがる」
で、何よ。それってあのドラゴンと同じネタ?
あたしの持ってる魔力に屈しましたってやつ?
そりゃあたしってば、世界一の魔女だし。
ここは一つ、魔法でも見せて退散させてやろうかしら。
確かお師匠はこんなの言ってたよな、
「アブダッ、カッ、タブラ?」
あれ違ったかな、それじゃこれどうかな。
「うっ、何をしようとしてる。やめろ!
お前が魔法なんぞ使ったりしたら・・・
お前何にも聞かされてないのか?」
もう一度、何とかの一つ覚えだ、どうとでもなれ!
「アブダ、カタブラ~!」
その時ですよ。あたしの右手の甲に描かれてあった
魔方陣からその絵柄がそのまま、光になって
あたしの頭の上に何か大きな光の輪みたいに浮かんできて、
そこからおびただしい程の光の帯があちこち放出され、
そこら中の地面を焼き焦がしたりしながら、
オオカミ男にも襲い掛かった。
奴の全身あちこちにその光の帯が突き刺さり、
無言のままオオカミ男は、
あたしの目の前で、
くだけ散った!!
「イヤァ~ッッ」
今度こそあたしは遠慮なしに、山向こうまで聞こえる見たいな声張り上げて、
絶叫してしまった。
そこから後は覚えてない。
だって気を失ったみたいだしね。