機上のバイオリニスト | THOUSAND WINDS

機上のバイオリニスト

「水をくれないか、心臓の薬を飲みたいので」
老いたバイオリニストが搭乗員に頼んだ。
高度2万メートル、雲の上の世界。
突然ある客が騒ぎ出した。
「おい何だこれ、プロペラが停止してるぞ!」
エンジンストップ、かくして旅客機は一路海面へ。
パニックになり騒ぎ出す客、
落ち着いて下さいとなだめる搭乗員。
その中で
先程の老バイオリニストが荷物の中から
長年愛用して来た、決して高くはないバイオリンを取り出し、
着席のまま弾き出した。
もしかしたらこれが最後の公演になる。
高度1万メートル
しきりに祈り続ける客
ただ泣きわめく客
子供をひしっと抱き抱える母親
その喧騒の中で
密かに誰もまだ聞いた事のない
バイオリンソナタが奏でられる。
高度千メートル
奇跡的にエンジンが復活した。
プロペラは回り出し、
旅客機は上昇を開始した。
皆が助かったと思った中に
いつしか聞こえなくなっていた
ある老バイオリニストの
最期の演奏曲
天上の音楽が終わり、
心臓の悪かった老バイオリニストは
天に召された。
あたかもその曲が
天の会衆らに見初められたように