ある朝、教室に入ると

掲示物が一新され、とてもきれいになっていた

机もきれいに整頓され

入った瞬間に、昨日帰ったときと違う、ということが

誰の目にも明らかだった


次々と登校してきた生徒が

あれ?

という表情で、私の顔を見た

そのうち、元気のよい女子が

「先生がやったの?」と尋ねた

ううん、違うよ

とニッコリして答えると

じゃ、誰がやったんだろう?

と、みんな一斉にキョロキョロしだした


私は、掲示されているものを見て

誰だかすぐにわかったが

黙っていた


おそらく、他の教員も生徒たちも

誰も気付かなかっただろうが

あの日を境にその学校は

生まれ変わり始めたのだ



H は家庭内での問題で

児童相談所に一次保護され、そのまま

養護施設に送られることになった

直前に話したとき

家にいると、どうしても母親とうまくいかない

このままでは、大変なことになりそうだ

そう、話していた


ちょうど児童相談所の一次保護所が

私の実家のすぐそばで

まだ実家に住んでいるころは

風呂に行くときによく通りかかっていた

父が、施設の前にある少年の銅像の頭を

よく撫でてやっていたのを思い出した

会えるかもしれないと

私は施設を訪ねたが、どうしても会わせてもらえなかった


そうこうしているうちに3学期になり

私はクラスの生徒のためにできることを探していた

掲示物は、誰かが破いたり汚したりすれば

すぐに静かに(みんなの知らぬ間に)張り替えられた


ある時、応援してくれていた難聴学級の先生と

破かれたりするんですよね、と

愚痴を言っていたら

破られたら、張り替えればいいのよ!と

叱咤激励された

手話部の部長さんは

その先生とまったく同じかんがえで

誰から言われるわけでもなく

静かに、地道に活動を続けた

次第に、心のすさんでいたクラスの生徒たちも

大事にするようになってきた


かつて、ニューヨークの市長が

荒れ果てた犯罪都市を建て直したとき

始めに手をつけたのは

町中の割れたガラスを入れ替え

落書きを消したそうだ

悪い環境は、知らず知らずのうちに

人々の心を荒ませる

そこから改善を図ったという


それと同じことが、私のクラスで起こっていた