お互いにフラストレーションは限界に達していた

 

比喩的に言うならば

それまでは、私は彼の目を見据えることが

できていなかった

ちょっと視線をそらしたまま

話をしたり、注意をしたりしていた感じだ

それは相手も同じで

例えば、肩に手をかけると

お互いが爆発するギリギリのところで

ふざけたように、体をかわし

逃げ回るような感じだった

 

お互いに「本気」でないので

激しくぶつかることもないが

理解し合うことも全くなかったわけだ

 

 

 

その時の光景は、今でも鮮明に覚えているが

前後がどうだったのかはよく思い出せない

 

空き教室だったのか、みんなが移動したあとの

空の教室だったのか

明るく静かな教室だった

とにかく、私はHと二人きりでそこにいた

はじめのうちは、それまで同様

のらりくらり、ボソボソと

やり取りをしていたが、埒が明かず

お互いに段々とイライラしてきていた

 

おい、もういい加減にしろよ

そう思った時

Hは、ズボンのポケットから

小さ目のスパナを取り出した

 

それを見た瞬間、頭の中で

いくつかの思考が駆け巡った

とうとう、覚悟を決めて

ヤらなければならないのか

本当に、一瞬のことだったが

そんな悲しい気持ちになった

そして、次の瞬間

パチンとスイッチが入って

(今風に言うなら「キレて」)

彼の目を射るように見て

「なんだ、お前! ヤるのか?!」

(発音は「ナンダテメーヤンノカ?」という感じ)と

怒鳴ると同時にHに詰め寄って胸ぐらをつかんだ

 

私のあまりの迫力(変貌ぶり?)に圧倒され

Hは、持っていたスパナを放り投げて後ずさり

情けない声で「や、ヤらねーよ」と言った

 

それを聞いた瞬間

私の怒りは、急速に鎮火していった

 

そのあと、多分、H はその場から

逃げてしまったのだと思うが

その日から、私は

比喩的に言えば

常に彼の目をぐっと見据えたまま

話ができるようになった

 

 

Hは口下手で

ほとんど自分の思いを口にすることはない

それでも、彼の気持ちが

つかめるようになっていった

 

彼の方も、段々と気を許すようになり

困ったときに、私のピッチ(PHS。連中はi‐modeを持っていた )に

電話をよこすようになった

 

 

 

小学生の頃、

クラスの粗野なヤツと喧嘩になり

生まれて初めて

マンガのように

人を本気で、拳で殴った

その時の手の感触は今でも覚えているくらいだ

(あまりにもきれいにストレートが決まり

私はそれまで喧嘩などしたこともなかったくせに

その後、自分は喧嘩が強いという

錯覚をおぼえてしまったため

その後中3までの間に

ガラにも似合わず、人一倍喧嘩をし

いくつもの大きな過ちを犯した)

 

そんなに激しい喧嘩をしたのに

なぜか、その直後から

その相手と大の仲良しになり

兄弟分のような感じになった

「ヤナやつだな」と思っていたのが

やりあってしまって、すっきりしてしまったのか

お互いに相手が好きになってしまったのだ

 

Hとの関係も

ちょうどそんな感じだった