前任の学校は、かつては足立区の中でも

悪名の轟いた困難校だったこともあったそうだ

窓ガラスどころか、教室と廊下の間の壁は

破壊され境目がなく

トイレの便器もなかったという

学校を訪問すれば4階からイスや机が降ってきたという

私の着任するしばらく前に

伝説の教師たちがいて

段々と平常の学校に近づいて行ったそうだ

伝説の一人は、足立区教育委員会の面接時

ラグビーの経験を買われ

「中学生なら何人ぐらいまでなら同時に大丈夫ですか」

と、問われて

まあ、5人くらいまでなら、と答えたら

その学校に赴任することになったという

当時の中学校は、荒れかたが尋常ではなかったので

そういう、力での制圧はやむを得ないと思われていた


それが、恐らく、私がいた6年がその学校の歴史上

一番落ち着いていたのではないかと思う

それがわかったのが、新しい学校の始業式の日だった


事前の険悪な学年会で

新2年3クラスは、問題児(!)をそれなりに

均等に分けていた

男子のトップ二人を私ともう一人の男性教員がもち

二線級を学年主任の女性がもつことになった

私のクラスは、女子の難しいのが数名いるクラスでもあった


卒業生を出したばかり

新2年なんてかわいいものだと思っていた


まだ担任発表もされていなかったので

私は体育館で生徒たちを待っていた

入ってきたのは、2年になったばかりの生徒なのに

ついこの間卒業させた生徒たちより

ずっと年上に見えた

ほとんどの生徒はひどい格好で

体育館に入ってきても、勝手なおしゃべりをしていて

整列しようなどという気配はなかった

もう一人の男性教員が、茶髪の生徒に

注意をしていたが、あまり刺激しないように

お互い、探りあいながら、のらりくらりした感じで

らちが明かなかった

そして、その茶髪こそが私のクラスの生徒だった


そのあとも、3年生が入ってきたときには

さらに驚いてしまった

未だにこんなドラマに出てくるようなワルがいるのか

と思うような、背の高い、ガラの悪い生徒がゴロゴロいた

担当の教員は、ほとんど何もできない様子だった

私と同じ英語の女性教員と、体育の講師の女性教員だけが

まともに注意をして、何とかしようとしていた


そして、始業式の前に着任式が始まったが

騒然としていて、まともに話など

聞くことはできない状態だった

そこへ後から遅れて、背は高くないが

威勢のいい男子が大声で騒ぎながら入ってきた

何と、その時にはすでに伝説になっているような

見事な茶髪のリーゼントだったのには

開いた口がふさがらなかった


新校長は、やむを得ず話を始めた

用意してきた手話を交えて、自己紹介を始めたが

体育館の中は誰も聞いてなどいないような状態で

校長が本当に気の毒に思えた

兎に角、教師と生徒の立場は

私の常識で言えば、逆転してしまっていて

教師はもぐらたたきをしているか

見て見ぬふりをしているしかなかった

生徒たちは、ふざけている感じで

教師の注意をはぐらかしていたが

ちょっとかけ違えば、すぐさま暴動になりかねない状態だった



その日は、長女の幼稚園の入園式があり

午後は休暇をもらっていた

先ほど見たばかりの、信じられない光景に

頭は真っ白になり、娘の様子など

全く目に入らなかった


これから、あの学校で

やっていくのか...


全く自信喪失状態だった