それは突然来た

一緒に飲んでいるお二人の会話に

加わろうとするが、舌がもつれて

ちゃんとしゃべることができない

おかしいな、変だぞ、これは

そのうち、意識が遠のいていくのを感じ

幻覚が見えるようになってきた

目の前でスローモーションのように

ゆっくりと起こっていることが

現実なのか、夢なのか、よくわからず

もどかしく感じていると

やはりそれは幻覚で、

実際に自分が動いているわけではなかった

これはおかしい、どうなっているのだ?

 

 

 

ゴルフ仲間の友人たちと

カラオケに行こうと誘われ

暮れのある日の午後、大宮まで出掛けた

大宮は、滅多に訪れることのない所だが

特に、今回の東口というのは

これまでに一度しか行ったことがない所だった

 

東口には老舗の高島屋があり

再開発された西口と違い

昔からの雰囲気が色濃く残されている

 

町は賑わっていてかなりの人混みだった

待ち合わせ場所の目の前のカラオケ館に入った

受付では、従業員がたった一人で

3つ位の業務をこなしていた

やはり込み合っていて

20分程度待つと言われたが、そのまま待つことにした

 

三人でカラオケは今回で二度目

2時間借りて、また、三人で2時間切れ目なく歌った

今まで歌ったことのない歌を何曲も歌ってみた

変な声を出していたら、喉がおかしくなった 

 

最初に頼んだドリンクは生ビール

最初の30分で飲み干してしまった

追加の仕方がわからなかったので

そのまま、二時間歌いきってカラオケを出た

 

まだ残っているか不安だったが

一人が、何十年か前に行ったことのあるという

銀座ライオンへ行くことにした

新宿の飲み屋街のような所を歩くと

店はまだ残っていた

 

7時までなら、と、テーブルを案内され

生ビール(中)を注文

つまみも適当に頼んで、

三人で音楽やゴルフの話を楽しんでいた

 

二杯目を注文したとき

頼んでいないものも届いた

店員は忙しいせいか、強気で

こっちの操作ミスだと

イライラした感じで説明をした

ちょっとカチンと来たが我慢した

 

そうして、二杯目を飲んでいる間に

それは突然来た

 

初め、呂律が回らなくなってきて

参ったな、と思っていた 

そのうち、音は聞こえているが

見ているものは現実ではないことがわかった

何度か会話に加わろうとしたが

実際に加わっていたのかどうか怪しい

 

最後に気づいたのは、仲間に「出るよ」と

肩を叩かれた時だった

何度か立とうとトライしたが

目の前が歪んでいて、とても立てる感じではなかった

そして、何度目かのチャレンジで

テーブルに手をついて立ち上がろうとしたら

バランスを崩してテーブルごとひっくり返ってしまった

一生懸命、落としたものを拾い上げていると 

さっきの店員がきて、迷惑そうに

そのままでいい、そのままでいいと言っていた

グラスなどは割れずにすんだ

 

何とか仲間に抱えられ

店の外まで出た

階段の様なところにしゃがみこんで

全く歩けなかった

 

どれくらいの時間がたったのかわからないが

それほど長くもない時間で

だんだんと意識が戻り、体にも力が戻ってきた

 

顔色が、赤に戻った、と仲間が言っていた

さっきまで、まだら模様だったと

一度意識が戻ると後は普通の酔い程度の感じで

電車に乗り、帰宅できた

 

 

以前、ドイツにいたとき

やけになってめちゃくちゃに飲んだとき

完全に意識がなくなって

何時間も寒空の下で動けなくなったことがあった

それ以来のことだったが

今回はほとんど飲んだ、言うほど飲んでいなかった

(ドイツの時は、最後には

ワインをらっぱ飲みしていた)

 

 

今回、出掛ける前に

妻が、私が出掛けることを忘れていたのが

とても気になっていた

近親者に認知症になった人はいないので

自分達がそうなることは想像できないが

もしかしたら私たちも?と

心配になっていた

そういえば、この頃、

自分も怒りっぽくなっている気がする

それは認知症の典型的な症状の一つだと聞いたことがある

 

加えて、カラオケに行った友人は

私よりも一回りも上の方だったので

気を使っていたのがも知れない

 

そんな心配事を抱えながら

飲んでいたせいなのか、

疲れていたのか

脳に毒が回ったかのように

突然、脳がおかしくなったのだ

 

アルコールは劇物の一つ

麻薬は違法だが、ニコチンやアルコールは合法

先日たまたま見たSNSの投稿にそんなことが書いてあった

 

翌日は、一滴も飲まないことにした

渡辺謙が主演した「明日の記憶」という映画を見た

若年性アルツハイマー型認知症になった

仕事一筋の50歳になろうという男の話だった

怖くて、悲しい話だった