実家に帰り、位牌の前で線香をあげる
遺影の父は珍しい表情でにっこり笑っている
いつも父が座っていた位置に座り
母や弟と話をする
もう、確かに父はいない
ふとした拍子に
父のことを思い出すことがある
この世を離れた父に
心の中で話しかけてみたりすることもある
父はきっと聞いていてくれていると思う
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昨晩、珍しく弟から電話があった
母に何かあったか?と思いすぐに出た
すると、例の如く弟は酔っていて
先日会ったばかりの教会仲間のことで
何やら文句を言っている
何を思い違いしたか、勝手に怒っていた
母がそばでやめろと言っているのが聞こえる
酔っているので、しつこく
こちらも少し飲んでいたせいもあって
いい加減にしろ!と怒鳴ってしまった
そして、一度怒鳴ってしまうと
ブレーキは全くかからず
続けて大きな声を出してしまった
弟もびっくりして、ようやくトーンダウンした
怒鳴った言葉の中に
馬鹿だのなんだのに混じって
「父ちゃんの代わりに言ってやる、
いい加減に酒を少し控えろ!」
などが出てきた
(何と、私の怒鳴り声を聞いて
そばで母が大笑いしていた)
怒鳴った自分の声を聞いて
父の声とすごくよく似ていると感じた
父が怒鳴ったりしたことは
ほとんどなかったが
それでも、まるで本人のような声に聞こえた
多分、弟もそう思ったのではないかと思う
不愉快だ、と言って電話を切った
すぐそばにいた妻や娘がびっくりしていた
何があったのというので
簡単に説明したが
こっちにもよくわからなかった
でも、そのあと、ちょっと笑って
お父さんにそっくりだったね、と妻が言った
いや、自分でもそう思ったよ、と苦笑いしながら答えた
照れ笑い、苦笑いと同時に
ちょっと涙ぐんでもいた
何だか心が掻き乱されて
しばらく落ち着かなかった
すぐに風呂に入って
なぜそんなに腹が立ったのか考えていた
同時に、あの自分の制御がきかなくなった
激しい感情の中に
父が生きていることを知り
呆然としていた
父は、ここにいたのか...
普段、なるべく感情を爆発させたりすることのないように
自分をコントロールしている
それが、たまに効かなくなることはある
おそらく、自分の深層に押し込めた感情には
自分自身でも気付かない「自分」が
隠れているのだろう
自分でびっくりしてしまうのだ
そしてその深いところに
今でも父は生きている
何か、すごい体験をしてしまったような
落ち着かない気分が続いている
私が大きな声を出すことなどほとんどないので、
うちの家族もびっくりしただろう
めったにないシチュエーションに
妻もいろいろ思うところがあってか
今朝も笑いながら
けんかのもとになった仲間のことを
「二人ともよっぽど好きなんだねえ」と感心していた