2017(平成29)年に公布された現在の学習指導要領
学習指導要領は10年ごとに改定されているが
公布当時、日本の教育の歴史の中で
「明治維新級の大変革」と言われていた
この学習指導要領は、文科省の関係者の間では
「合田の指導要領」と呼ばれているそうだ
私は、公布直後に、合田哲雄氏(現・文化庁次長)が
直接新しい指導要領の要点を説明する勉強会に
参加させてもらったことがある
その後も何度かお会いする機会もいただいたが
会った時の印象は、大変穏やかな方だった
しかし、先日、ご本人が書かれた文章を読んで
あの指導要領の改定中は、激しい論争をして
半ば強引に省内の要人を説得をして成立させたのだという
それが、ものすごい執念によるものだったのは
その、大胆な変革からみても想像に難くない
その中で、合田氏が一番力説していたのは
これまでの日本の学校教育の優れたところを
いかに次の世代に受け継いでいくか、という視点で
改定を行った、ということだった
つまり、「ベテラン」と呼ばれる先生たちのもつ
経験に裏打ちされた、優れた指導力 ― それは、単なる「教え込み」ではなく
子供たちの「主体性」を引き出し、他者との「対話」を通して
より「深い学び」へ導く力である ― を
どのように若い教員たちに継承したらよいかを
個々の地道な努力に頼るのではなく
「システム」そのものを変革することによって
成し遂げよう、という戦略であった
そのために、「学力」とは何かという
最も根本的なところから定義しなおした
それまでの知識(技能)偏重主義を改め
生きて働く確かな知識・技能の習得に加え
その知っていること・できることをどう使うかという
「思考力・判断力・表現力等」の育成と
どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るかという
「学びに向かう力、人間性等」の育成を、一体的に目指すものとなった
そのための手段として
「主体的・対話的な」学習スタイルを重視し
「深い学び」を目指すこととした
これ自体は、新しい学び方として紹介されているのだが
合田氏が強調したのは、決して「新しい」ものではなく
ベテランの教師たちがもっている優れた指導力から
抽出したものだ、ということだ
私も、これまでの経験から
ようやくこれらの指導要領改訂の
真の方向性が理解できるようになり
本気でその理念の実現に向けた教育改革を始めたところである
私の学校にも、合田氏が強く頷くような
優れたベテラン教師が何人かいる
それらの教師のもっている優れた指導力というのは
まさに合田氏が今回の指導要領に込めた願いを
体現するような力である
しかし、改革の先陣を切って
若手をけん引してほしいそのベテラン教師たちに
この改革の方向性を理解してもらうことができていない
ベテラン教師たちは
遅かれ早かれ、そう遠くない将来
現役を引退していく
それまでに、次の世代に
長い年月をかけて獲得してきた特殊な資質・能力を
どう受け継がせるのか
そのためには、一人一人の努力に頼っている時間的な余裕はない
システムそのものを変えていく大胆な変革が必要である
これが実現しない限り
現指導要領の理念は体現されることはないだろう
それが成し遂げられなければ
今の日本の問題は、ますます深刻になるばかりか
明るい未来は、ないだろう
この改革を前に進められるかどうかは
それらのベテラン教師たちの賛同を得られるかにかかっている
さあ、どうする、自分?