NHK 教育テレビ(以前は3チャンネルと呼んでいた)
「こころの時代」(宗教・思想)は
誰が見ているのだろう、と思うような
地味な番組だが、内容は大変充実していて
これまでにも何度か感動させられた

今回は、宮沢賢治の特集をシリーズでやるというので
ビデオを毎週録画設定にしておいたら
毎週ではなく、毎月だったので
月の残りは、別の話になっていた
それでたまたま見ることができたのが
今回の番組「心とは何か 脳科学と仏教」(再放送)だった

内容は、
脳外科医 埼玉医科大学名誉教授 浅野孝雄氏の書いた
「改訂版 心の発見 ブッダの世界観」に基づき
僧侶 筑波大学名誉教授 佐久間秀範氏との対話で構成されていた
「意識とは、気づきの大意的な状態の連鎖を形成していく
プロセスに他ならない。」
つまり、脳外科として、いわゆる「物」としての
脳を対象として来た浅野氏が
「物」ではない「心」というものと向き合った
長年の研究の成果である書物だ

興味深いのは、医学という科学の分野を突き詰めていった先に
仏教という答えがあったところだ

番組では、まず医師と僧侶のお二人が
ブッダの悟りについての特異性について、西洋文明とは
大いに異なる世界観を語っていた
それが、我々日本人には馴染みの深い
「諸行無常」という捉え方だ

すべてのつくられたものは無常である
万物は常に変転してやむことがない
すべてのものは実体として存在しているものはない
そして、その逆の見方としての「諸法無我」だ

私たちは、常に変化し続けている「物」であるにも
関わらず、対象を実体と捉えてしまうが
実際は目には見えない速度で
この世に存在するすべての物は変化している
ブッダの悟りは
いつまでも変わらずに存在しているものはない、という
「プロセスの存在論」であったという
西洋では、ソクラテスよりももっと以前から
実体という捉え方で、流れの中から切り取った考え方をしてきた
しかし、ブッダは
この世には実体という物は存在せず
すべての物は常ならぬものであるということを見抜いたわけである
これは現代の量子力学でも証明されている事実だ

番組では、その確認の上に
物である脳が、どうして心を生み出すのかに迫っていった


 
 
数理科学者 中部大学創発学術院院長 教授 津田一郎氏が
大気の動きを計算式で表したとき
一見何の意味も関係もない
カオスのように見える座標上の動きが
三次元で表してみると
美しい蝶の羽のような形に集約されていたことを発見した
一見何の秩序もない動きが
ある時から秩序を帯びてくる状態を
アトラクター、と呼んでいた

浅野氏は、臨床から得た疑問に対する答えを
脳科学者 ウォルター・フリーマン氏の 
How BRAINS make up their mindsにヒントを見いだした
津田教授は、フリーマンとも共通の認識をもっている
 
意識とは、気づきの大域的な状態の連鎖を形成していく
プロセスに他ならない
そして、その連鎖が「心」となる
 
 

浅野氏は、さらにブッダの教えと縁起の十二支が
最新の脳科学と一致していることを発見した
ブッダが説いた十二支は直線のようなものではなく
円環状のものであると見てみると
カオスの意義がはっきりとしてくる
 
 

ブッダが悟った生老病死という苦しみは
死で完結するのではなく
カオスになり、再生していく
そこに人間の希望があるという

諸行無常
この世界に実体は存在せず
すべては無常、常ならぬものである
プロセスとしての存在論は
現代の科学によって
証明される日も遠くないだろう